から

@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

スーパーヒーロー!
・珍しくギャグ。
・みんな高校生のとんでもパラレル。
・みんな遊星が大好きなんだ……。
#現代パラレル

「はっ!」
 不動遊星は突如として上半身を机から引き剥がした。バネ仕掛けのように飛び上がった彼は制服の上着の内ポケットへと右手を突っ込み、ぶるぶる震えるスマートフォンを取り出す。それは画面に『!!』とエクスクラメーションマークを二つ表示していた。赤色のエマージェンシーコール。呼んでいる! あいつが!
「出動だ!!」
「ちょっ遊星どうしたよ」
「済まないが鬼柳このBLTサンドはお前の胃袋に収めておいてくれ」
「ええーまたかよ俺もう食えねぇよ」
 右手で軽く敬礼に似た挨拶をして遊星は教室を飛び出した。共に昼食を取っていた鬼柳京介は何度目になるか分からない親友の後姿を見遣りながら、「あぁこんなにも世間は平和なのになんでなのかね」と思いつつBLTサンドを口へ突っ込んだ。既に弁当一つとペットボトルのコーヒーを半分ほど入った腹には少々きついのだが。
 廊下を駆け抜ける遊星はさながら鼬のようだ。するすると昼休みを自堕落に過ごす学生達の間をすり抜けて、三年生の靴箱のある南玄関へと向かう。自分達二年生はあまり行くことのない場所だが、彼には馴染みが深くなりつつあった。その理由は先のエマージェンシーコールだ。助けが必要なあいつが三年だから。
「ブルーノ!!」
 あいつ、とは、今まさに遊星の目の前で胸倉を掴まれている身長がやたらと高い青年のことである。
「やめてよやめてよ暴力反対! ……あっ遊星!!」
 涙目で自分に掴み掛かる男に両手を揚げて抵抗する(その意志を示しているだけだが)ブルーノは、廊下の奥から差し込む後光を受けて仁王立ちしている遊星を見て顔を綻ばせた。遊星が来てくれたのだ、僕のために! 大好きな彼が!! 輝く彼の胸倉を掴んでいる金髪の男はその右手の力を強めた。ぐえっとブルーノの声が上がる。
「お前また遊星を呼んだのか! 軟弱者めが!!」
「ジャック、今すぐその手を離すんだ。でなければ俺はもうお前と回し飲みはしない」
 長いもみ上げが特徴的な男、ジャックは遊星のその言葉にぴたと動きを止め、振り下ろさんとばかりに掲げていた左手をすっと下げた。ブルーノの制服を掴んでいたもう片方の手もすぐさま離れる。
「遊星、お前いい加減にこいつのことは放っておけ」
「ブルーノは俺の大切な先輩であり尊敬するメカニックだ。そんなことできるわけないだろう」
「遊星……!!」
「うぐうぁぁお前の口からそんな言葉を聞きたくはない!! いいか覚えておけブルーノ!!」
 ぎりぎりぎりと拳を握り締めるジャックにひいっと怯える。そんなブルーノの青い髪を少し背伸びしてよしよしと撫で慰める遊星は、はたと現状とは全く関係のないあることを思い出してジャックを呼び止めた。
「あ、ジャック」
「なんだ遊星? 俺と一緒に授業を受けたいなら一言言えば、」
「違うそもそも同じクラスじゃないだろ」
 先程とは打って変わって上機嫌で振り向いたまでは良かったのだが、即否定する遊星にジャックのハートがちょっと傷付く。幼馴染の遊星は自分に少しばかり冷たい気がするのは気のせいだろうか。
「鬼柳が、放課後部会をやると言っていた」
「……分かった」
 こくりと神妙な面持ちで頷く。それから踵を返し、ジャックは自分のクラスへと戻るため肩をいからせつつその場を後にした。去りゆく友人を見送ってから、遊星は壁に凭れかかるブルーノの顔を覗き込んだ。疲れ果てているその表情に、遊星の顔も少し曇る。
「大丈夫か? ブルーノ」
「あぁ、大丈夫……ごめん、いつも呼び付けちゃって……」
「良いんだ、別に四六時中のことじゃないだろう。それよりジャックがいつも迷惑を掛けて済まないな」
 苦笑して、遊星は自分の携帯端末を撫でた。所々画面が割れているスマートフォンは、ブルーノが遊星を必要としている時に威力を発揮する。と言っても特別な仕掛けが施されているわけではなく、ただ何らかの助けを求めている時に通知するだけのことなのだが、それはジャックにしばしば脅されるブルーノにとってのライフラインであり遊星との絆の証でもあった。彼にとって遊星は共に所属する『メカ開発同好会』の後輩であると同時に自分の救世主であるから。
 同好会を維持するために必要なメンバーが足りず困り果てていた時、「今までこんな同好会の存在を知らなかった、是非入れてくれ」と遊星が名乗り出てきたのは、ブルーノが三年に進級した春のことだ。それから意気投合した二人はコンテストに出場するために作品を開発したりだとかで行動を共にすることが多くなった。そのうち、ブルーノに妬いたジャックが何かと突っかかってくるという関係図が出来上がり、今日も今日とてジャックを宥めることのできる遊星に助けを求めてブルーノは彼のスマホを鳴らすのであった。

 時間は流れ放課後、部室棟の二階の端の部屋には二年生四人、遊星、ジャック、クロウ、鬼柳が集まり顔を突き合わせていた。部屋の中央に四つ並べられた学生用の机と今彼らが座っている椅子は年季が入っており、壁に寄せられたホワイトボードには良く分からない落書きしか描かれていない。
「いいかおめぇら! 今日が何の日か知ってるか?」
 ばん! と机を両手で叩く鬼柳の顔は鉛でも味わっているかのように険しい。が、そんな彼を揶揄するように向かいに座るクロウが一言零した。
「聞かれるまでもねぇし。つか俺と遊星は関係ねぇっつうのに何で呼ばれなきゃなんねぇわけ?」
「クロウ君俺それはひどいと思う」
「だってお前とジャックだけじゃねぇか関係あるの」
 ちら、と右斜め前に座っているジャックを見遣ると、彼は正面の遊星をにやつきながら眺めていた。こいつ話聞いてねぇな。腕時計を確認すると既に時刻は夕方の四時十五分を過ぎたところで、鬼柳とジャックが招集される時間まで残り十五分弱しかない。クロウは立ち上がって顎をしゃくる。
「おら、もうすぐ時間だろが」
「そうだぞジャック。鬼柳も、途中まで付いていってやるから、ほら」
 あやすような遊星の口調にもジャックは首を縦に振らない。
「嫌だ俺は行かんぞ」
「何その幼稚園に子供送る親みたいなの」
 ぷいと拗ねるジャックに遊星とクロウの溜息が漏れた。それからやれやれという風な遊星の声がジャックに圧し掛かる。
「元はと言えば二人がテストで赤点三つ取ったからだろう」
「そうだぜ俺と遊星はクリアしたってのによー」
「うっせえぇぇ俺は頑張ったんだよおおぉぉ!! 大体ジャックだって落としてんじゃねぇか!!」
「黙れ鬼柳!! 偶々試験問題と馬が合わなかっただけだ!!」
「いやたかがテストに馬も何もないだろ」
「クロウの言う通りだ、往生際が悪いぞジャック。草抜きくらいすぐ終わるだろう。というかそれをサークル活動にカウントするのはどうかと思うんだが」
 サークルというのは、彼ら四人で構成される総合ボランティアサークル『チーム・サティスファクション』のことを指す。鬼柳が「どデカいことをやるにはボランティアして満足するしかねぇ!」と言い出したのがきっかけで、普段の活動としては本日これから鬼柳とジャックが従事する成績不良者による自主校内草抜きであったり、遊星の町内の知り合いから依頼される清掃活動であったり、クロウの知り合いの子供達が多数通う小学校の演奏会参加などである。つまり基本的には雑用をこなすサークルである。ちなみにサポーターとしてブルーノが影で協力してくれていることは遊星以外知らない。
「なー草抜き終わったら夜弾けてもいい? いい?」
「猫撫で声止めろ鬼柳。そうだな……最近夜回りしてないからな。久々に良いんじゃないかと思うんだが、クロウはどう思う?」
「俺さんせー」
「俺もだ」
「ジャックは遊星が居りゃ何でも良いんだろ」
「そうとも言うな」
 クロウの腕時計は既に四時二十分を知らせている。鬼柳とジャックが放送で呼び出されるまであと十秒足らず。



次回予告
ある日の夜、不良狩りのボランティアに夜の街へくり出したチーム・サティスファクションのメンバー達は、夜なのにグラサンをかけた長身の男と出会う!手には学校一厄介と言われる生徒会長プラシドの姿が! 奴は一体何者なのか!? 果たして彼らの運命は!?
という話があるかもしれない畳む