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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

召し上がれ
・チームユニコーンがスペインの町にあるという美食倶楽部(ソシオ)をやっているというパラレル。
・酒屋はクロウさん。
#チームユニコーン #現代パラレル

 白身魚の焼ける匂いが何十年も使われてきたキッチンに漂う。ガーリックの香りが魚にしっかりと染み込んだら塩胡椒を適量、それから白ワインを加えて程好く蒸し焼きに。スムーズな手付きは数年来の付き合いでアンドレには見慣れたものだ。サラダ用のハーブを平たい皿に盛り付けている彼の目はフライパンに蓋をするジャンに注がれていた。それでも手元を狂わせないのはアンドレもこの美食倶楽部にすっかり馴染んでいるからである。
「出来上がり」
「ひゅう! すっげー美味そうじゃん」
「当たり前だろう。仕上げにパセリの刻んだやつ、ほらさっき冷蔵庫に入れておいた……あれ飾っといてくれ」
「オッケー」
 白皿の舞台の上に飾られた白身魚のソテーが三つ。その上にオリーブオイルとレモン汁へ微塵切りにした玉葱と塩漬けオリーブを合わせたソースを垂らし、瑞々しい緑をはらりと散らせば本日のメインディッシュの完成だ。所々細かい傷の付いた、しかし美しい木目を保つ大きな机にジャンの手が皿を並べていく。優に十人は座れるその机の上には既にワイングラスとバゲット、それにいんげん豆のスープが準備されており、あとはアンドレがサラダを持ってくれば全て終了だ。ジャンの口元から小さな息が漏れた。料理が上手く出来上がった時は最高に気持ちが良い、それを食した時の感動まで予測できるから。少し気の早い感嘆の吐息だった。手の甲にソースがついているのを見つけて、それを黒いエプロンで拭ってからジャンははたと辺りを見回した。「ブレオは?」誇り高き美食倶楽部の仲間が一人足りない。
「ブレオならワインを受け取りに庭に出てったけど?」
 視線だけを上げてアンドレが答えた。
「あぁそうか、今日は注文しておいたんだったな」
「さっきバイクの音がしてたからもう戻ってくるだろ」
 馴染みの酒屋が予約しておいたワインを配達してくれるのは慣れ親しんだ光景であった。間も無く扉の鐘がちりんちりんと鳴り渡り、金髪を少し乱した青年が若草色のボトルを手に現れた。
「お待たせ、ワイン到着!」
「グラーシャス!」
「よし、では始めようじゃないか」
 各々はエプロンを外し、壁に取り付けられたフックへ掛けてから席へ着いた。それらが三つとも黒色である理由が仲間の繋がりを意識しているからだとは口に出さなくとも見て取れる。
 ジャンの手に握られた栓抜きが、ぎゅ、ぎゅ、とコルクを抜いていく。その様子をじいっと見詰めるアンドレとブレオの視線をまぁまぁと宥めている間に栓は抜け、ぽんっと軽快な音が響くと同時に芳醇なワインの香りが広がった。すんすんと鼻を鳴らすブレオにジャンは一つ苦笑を零した。
「慌てるな、まだ始まっていないぞ」
「料理は食べる前からも勝負だろ?」
 別に勝負をしている訳ではないのだがな。そう思いながら、ジャンは深い深い紫色を三人分のグラスへ注いだ。果実酒はまるで誘うように透明な光を含み、味わわれるのを待ち侘びている。
 始めにアンドレ、次にブレオ、そして最後にジャンがグラスを手にした。目線の高さまでグラスを持ち上げたジャンの楽しげな声が開始を告げる。この空間さえも美味しく感じる時間の始まりだ。
「それでは、本日も我等がソシオに乾杯」
「乾杯!」
「かんぱーい!」畳む