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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

バランスゲーム
・大昔に参加したインテで無配ペーパーに載せたもの。
#カイト

 整列した物体に美しさを感じるのは規則性に従って何の綻びも無く並んでいるからだと思う。それに比べて乱雑に放置されたものは完成した絵画に墨を投げ入れたかのような汚らしさしか感じない。カイトは床に散らばったカードを見下ろしながらそう思った。まるで動物の死体でも眺めるみたいに冷め切った瞳で。その犯人が自分自身であるにもかかわらず、カイトは嫌悪感を抱いた表情でその光景をただ見ていた。
 眼前に戦う相手が居ないのに白い衣服を纏ったままなのはただの気紛れだった。その服装のまま自室に足を踏み入れた時、机の上に置かれたジェリービーンズと苺のショートケーキがまず目に入った。自分からは決して手に入れようとしないそれらが色味の欠けた室内に不自然なほど濃く浮かび上がっていた。陶器の器に盛られた色とりどりのジェリービーンズと大きな苺が丸ごと飾られた白いケーキが一切れ。微かに匂った甘い香りがカイトの眉を顰めさせる。頼んでもないのにこんな下らないことをする奴はあいつしかいない。草色の髪を撫で付ける男の顔が浮かんで、苦虫を噛み潰したような表情でカイトは思い切りカードを床へ投げ付けたのだった。
 カードの横を通り抜け、角張った机に近寄る。カイトは卓上に置かれたジェリービーンズをがっと掴むとそれも床へ投げた。ばらばら散らばる七色の粒。均衡の崩壊。
「くそ」
 隣にあるケーキの苺。ルビー色の果実を摘まんで少し力を込める。するとあっという間に苺は潰れて、紅色の汁が指先からカイトの手首へと伝った。まるで血液だ。白い服にぽたりと零れた雫はすぐに滲んで赤い痕跡を残した。数回咀嚼してから飲み込む。微かに冷たい感触が喉を通り抜け彼の胃に落ちた。
 美しい形のショートケーキは宝石を奪われて写真のない写真立てのように味気の無い姿を晒している。これで少なくともこの部屋の中の調和は全て崩れた。カイトは漸く皺を刻んでいた眉間を緩めると、芳香を放つ実を口に含んだ。破壊されたというのに苺は完璧なほど甘く、酸っぱく、そして美味だった。
 残された最後の秩序が舌の上で踊る。その味に再び眉を寄せながら、しかしカイトの口元はほんの少しだけ、解けていた。これでやっと全部壊れたな。畳む