悪夢なら醒めてほしい・18歳ブルーノ×28歳遊星チーフ。#ブル遊 #IF 続きを読む 自分の実力を全力で発揮できる場所があるとしたら、それはそれは幸せなことだと思う。自分の価値も、存在意義も、満足感も得ることが出来る場所。それがあの人の隣だったらさぞかし自分はたまらなく幸せなんだろうなぁと、ブルーノは手元のキーを打ちながら呆けた頭で考えていた。眼前のモニターに映し出されているのは次の会議に使われる資料の一部だ。研究室には今、ブルーノとチーフの遊星しか居なかった。このシチュエーションはブルーノにとって本来悶絶ものであるはずなのだが、その胸中でうだうだと拗ねた子供のように廻る感情が邪魔をして、彼を素直に喜べる状態にしなかった。単純な切欠から遊星のプロジェクトチームに誘われたブルーノはその優秀な頭脳を惜しみなく発揮してはいたが、いまだ齢十八の彼に任される仕事といえば基本的には上司の資料作りの助手が主で、自由に動けるような立場ではない。責任を持たなくてよい代わりに責任のある仕事もさせてもらえない。役に立ちたいけれども何をしていいか分からない。霧の中で地図を見ているような気分がブルーノの心を曇らせる。 憧れに似た恋だ。あの不動博士の息子であり現在はシティのシステムの根幹を支えている不動遊星という人間、その傍で働けることはブルーノにとって誇りであり、密かに慕っていた人物を知る絶好の機会だった。しかしその分常に不安を抱いていた。自分はチーフにとって何なんだろう? 何故ボクを誘ってくれたんだろう? 余計な期待がちらついて仕事が捗らないことも屡で、今この時もそうであった。ブルーノの蒼い目が左の方を盗み見る。まるで何かに突き動かされているかのようにプログラムを打ち続ける遊星の横顔には明らかに疲労が垣間見えている。こういう時上司なら上手くフォローできるんだろうな。そう思うと、自然とブルーノの口元から溜息が出た。出来ることなら、いや自分が今出来ることをやらなければ遊星との距離は近付くどころか離れるばかりだ。そう思い直し、ブルーノは席を立った。「あ、あの、チーフ……」 遊星の右側、一歩下がった場所からブルーノは声を掛けた。沢山のモニターのライトが遊星の細い顎や骨張った指を照らしていた。おずおずと、小声で話し掛けたブルーノに「どうした?」と声だけ返す遊星は、その手を動かし続けている。止まる気配はない。あぁ自分はどうして! 白衣を少し握り締め掌にうっすらと掻いた汗を拭ってから、ブルーノは緊張を打ち破るように、鼓舞するように、少し大きい声を出した。こういう時に役に立たなくてどうする、不動遊星は皆の中心なんだ!「あのっ、チーフに、休んでほしくて」 静かな研究室に思いのほか響いた声に、流石の遊星も手を止めた。ぱちくりと目を瞬かせて、そうしてブルーノを見上げた。年齢よりも若く見えるその相貌には少しの驚きの色が浮かんでいて、けれども直後に滲んだ寂寞が彼の両目を伏せさせた。疲労故かと思ったブルーノの声が上がる。「だ、大丈夫ですか!?」「あぁ……いや……済まない、そうだな、そうだ……無理をするんじゃないと、いつも言われていたのに……」 遊星の消えそうな声を拾い上げたブルーノは、その過去形の言葉にひくりと指先を強張らせた。違和感だった。いつも何処か、不動遊星から感じ取っていた違和感。それはどうしてか彼と自分との間に存在していて、気が付いた時にはなくなっているけれど確かにあったもの。自分が居て居ないような、それとも自分とは違う誰かと話しているような。「あの……チーフにとって、ボクは、どんな存在なんでしょうか……」 自分が発した言葉に二重の意味はなかった。言葉通りの意味で、ブルーノは遊星に問いを投げ掛けた。疎外感でもない、けれども不動遊星はブルーノという自分を何処か見えない膜の外から見ているような気がして、その心中を知りたかったのだ。認めてもらいたいのに、貴方は何処を見ているのかボクには分からない。羨望と恋慕の交じり合った、それだけの気持ちから出た言葉だった。 けれども遊星の反応はブルーノの予想を裏切った。「仲間だ」だとか優しい社交辞令染みた言葉が返ってくると思っていたのに、遊星はまるで暴かれてはならないものを無理矢理覗かれたような目をして、戸惑いの表情でブルーノを見上げていた。喉に何かを詰まらせているみたいに回答に困っていて、それはブルーノをひどく不安にさせた。不安は怯えと同時に相手との一体感を望む。誰かとの繋がりを切望させる。ブルーノの手が、遊星の肩に伸びるのに然程時間は掛からなかった。きっと指先は冷え切っているだろうな。触れた白衣の表面は草臥れていて、疲弊し切っているんだと主張しているように思えた。「ボクは、チーフのお役には、立てませんか」 その言葉が遊星にとって希望も絶望も与えるものだということを知っていたならば、自分は言わなかっただろうか。それとも心を手に入れる為に口にしていただろうか。どちらにせよ、今のブルーノには考えも及ばないことだった。畳む 5Ds 2023/06/09(Fri)
・18歳ブルーノ×28歳遊星チーフ。
#ブル遊 #IF
自分の実力を全力で発揮できる場所があるとしたら、それはそれは幸せなことだと思う。自分の価値も、存在意義も、満足感も得ることが出来る場所。それがあの人の隣だったらさぞかし自分はたまらなく幸せなんだろうなぁと、ブルーノは手元のキーを打ちながら呆けた頭で考えていた。眼前のモニターに映し出されているのは次の会議に使われる資料の一部だ。研究室には今、ブルーノとチーフの遊星しか居なかった。このシチュエーションはブルーノにとって本来悶絶ものであるはずなのだが、その胸中でうだうだと拗ねた子供のように廻る感情が邪魔をして、彼を素直に喜べる状態にしなかった。単純な切欠から遊星のプロジェクトチームに誘われたブルーノはその優秀な頭脳を惜しみなく発揮してはいたが、いまだ齢十八の彼に任される仕事といえば基本的には上司の資料作りの助手が主で、自由に動けるような立場ではない。責任を持たなくてよい代わりに責任のある仕事もさせてもらえない。役に立ちたいけれども何をしていいか分からない。霧の中で地図を見ているような気分がブルーノの心を曇らせる。
憧れに似た恋だ。あの不動博士の息子であり現在はシティのシステムの根幹を支えている不動遊星という人間、その傍で働けることはブルーノにとって誇りであり、密かに慕っていた人物を知る絶好の機会だった。しかしその分常に不安を抱いていた。自分はチーフにとって何なんだろう? 何故ボクを誘ってくれたんだろう? 余計な期待がちらついて仕事が捗らないことも屡で、今この時もそうであった。ブルーノの蒼い目が左の方を盗み見る。まるで何かに突き動かされているかのようにプログラムを打ち続ける遊星の横顔には明らかに疲労が垣間見えている。こういう時上司なら上手くフォローできるんだろうな。そう思うと、自然とブルーノの口元から溜息が出た。出来ることなら、いや自分が今出来ることをやらなければ遊星との距離は近付くどころか離れるばかりだ。そう思い直し、ブルーノは席を立った。
「あ、あの、チーフ……」
遊星の右側、一歩下がった場所からブルーノは声を掛けた。沢山のモニターのライトが遊星の細い顎や骨張った指を照らしていた。おずおずと、小声で話し掛けたブルーノに「どうした?」と声だけ返す遊星は、その手を動かし続けている。止まる気配はない。あぁ自分はどうして! 白衣を少し握り締め掌にうっすらと掻いた汗を拭ってから、ブルーノは緊張を打ち破るように、鼓舞するように、少し大きい声を出した。こういう時に役に立たなくてどうする、不動遊星は皆の中心なんだ!
「あのっ、チーフに、休んでほしくて」
静かな研究室に思いのほか響いた声に、流石の遊星も手を止めた。ぱちくりと目を瞬かせて、そうしてブルーノを見上げた。年齢よりも若く見えるその相貌には少しの驚きの色が浮かんでいて、けれども直後に滲んだ寂寞が彼の両目を伏せさせた。疲労故かと思ったブルーノの声が上がる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ……いや……済まない、そうだな、そうだ……無理をするんじゃないと、いつも言われていたのに……」
遊星の消えそうな声を拾い上げたブルーノは、その過去形の言葉にひくりと指先を強張らせた。違和感だった。いつも何処か、不動遊星から感じ取っていた違和感。それはどうしてか彼と自分との間に存在していて、気が付いた時にはなくなっているけれど確かにあったもの。自分が居て居ないような、それとも自分とは違う誰かと話しているような。
「あの……チーフにとって、ボクは、どんな存在なんでしょうか……」
自分が発した言葉に二重の意味はなかった。言葉通りの意味で、ブルーノは遊星に問いを投げ掛けた。疎外感でもない、けれども不動遊星はブルーノという自分を何処か見えない膜の外から見ているような気がして、その心中を知りたかったのだ。認めてもらいたいのに、貴方は何処を見ているのかボクには分からない。羨望と恋慕の交じり合った、それだけの気持ちから出た言葉だった。
けれども遊星の反応はブルーノの予想を裏切った。「仲間だ」だとか優しい社交辞令染みた言葉が返ってくると思っていたのに、遊星はまるで暴かれてはならないものを無理矢理覗かれたような目をして、戸惑いの表情でブルーノを見上げていた。喉に何かを詰まらせているみたいに回答に困っていて、それはブルーノをひどく不安にさせた。不安は怯えと同時に相手との一体感を望む。誰かとの繋がりを切望させる。ブルーノの手が、遊星の肩に伸びるのに然程時間は掛からなかった。きっと指先は冷え切っているだろうな。触れた白衣の表面は草臥れていて、疲弊し切っているんだと主張しているように思えた。
「ボクは、チーフのお役には、立てませんか」
その言葉が遊星にとって希望も絶望も与えるものだということを知っていたならば、自分は言わなかっただろうか。それとも心を手に入れる為に口にしていただろうか。どちらにせよ、今のブルーノには考えも及ばないことだった。畳む