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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

特権階級
・アカネ→→→←タイセイ
・14話後
・精神的な支えとしていたふたり
#アカタイ

 多分、僕は緊張していた。姉さんが帰ってきたことで、タイセイはひとつ得て、僕はひとつ失うんだと思った。
「明日からはもう大丈夫だよ、今までありがとう」だとか、タイセイに似合いの綺麗な言葉で切り返されると思って、イナさんと君がお互いに手を振り別れた時、このたった数ヶ月のことを思い出して、僕は少し肩に力が入っていたのだ。
 真夜中に突然来るメッセージも、どこにも行き場がない時に君とあてどなくさまようことも、とても好きだった。
 誰かのために時間を費やすことの幸福感は、ドーピングに似ている。依存性がある。ありがとう、助かったよ、居てくれてよかった。賛辞ではなくて、感謝の声というのは、肯定を含んでいる。言葉を飲み込むたび、もっと与えて欲しくなった。タイセイをどこか自分のために使っていた気もして、自己嫌悪に陥りながらも、また僕はタイセイのために時間をあてがっている。

 イナさんを置いてERDAを退出してから、タイセイと僕は最初、やはり彼女に関する話をした。でも、その話題も尽きて(そもそも口外できないことを外では話せないし)手持ち無沙汰になり、間もなく僕らは次の議題へと駒を進めた。
「ずっと、どうしようかなって、考えてたんだけど」
 夏服に衣替えしたばかりのタイセイは、日焼けの跡がほぼない腕で、僕を引き留めた。そうか、この二年彼は出掛ける気力もなかったのかと、当然のことを今更ながら思い、先日の言葉を今更ながら改めて悔いる。
 タイセイとあの人が、どれだけ会いたいと願っていたのか、想像に難くないじゃないか。
 握られた右手が、じっとり熱かった。上がり続ける初夏の気温の影響だと、分かっているのに。
「あの、アカネ」
 振り返れば、タイセイは言いにくそうに目を少し泳がせ、口を開く。
「これからも、前と変わらずに、僕に付き合ってほしくて」
 と、なんとも小さい声で、しかし頼りないわけじゃなくて、しっかりと嘆願した。
 僕の背に汗が流れた。
「こちらこそ、よろしく」
 焦燥感は消え失せていた。まるで告白の返事のように返してしまったのは、舞い上がっていたせいだ。僕は幸福感が欲しかった。
 このまま「好きだ」と言えたら、幸せなんだろう。
 でも、きっと一瞬で崩れる。安心して笑うこの顔を、もう見られないかもしれない。
 一か八かの賭けにしては、あまりに勝率がみえない。
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