から

@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

しあわせなせかい
・ショタブルーノと未来の遊星。
・遊星さん未来にタイムリープして一緒に世界救ってもいいよ。
#ブル遊 #IF

 いつも自分は真逆の場所からブルーノを見ていた。眩しい光の中で笑う彼を見上げていた。透けて空と溶け合った青色を、今でもよく憶えている。鮮やかな息吹の色が俺の目の前に垂れて、ブルーノは俺に笑いかける。どうしたの遊星。訊ねられても俺は答えを持っていなかった。何故なら俺はただ彼に見入っていただけだったから、何でもない、と答えるしかなかったのだ。
「どうしたの遊星」
 少し高い声が下から聞こえた。遠ざかっていた意識を引き戻す。視線を右へと移動させると、ブルーノと全く同じ色を持った少年がDホイールに腰掛けヘルメットを抱きかかえている。俺の半分もない少年は、いや、正真正銘、確かにブルーノなのだ。未来を生きるブルーノ。記憶の中の彼とは違う場所から俺を見上げる。
「……済まない、何でもない。それより前言っていたDホイールのプログラムはどうだ」
「うん、まだちょっとしか書けてないんだけど……」
「その歳でそれだけ組めれば充分だ。将来が楽しみだな」
 言って、自分でも馬鹿なことを口走ったものだなと思った。将来、だなんて。俺が知っているブルーノの将来と今俺の横で笑っているブルーノの将来は非常に似ていてけれど確実に違うのだ。それでも、滅びを知らぬ世界で、この少年はきっと笑える。俺が見たあの笑みを、同じ笑みを浮かべて笑うのだろう。
「遊星、ボクもいつか、遊星と同じ場所へ行けるかな」
 少年はそう言って笑った。あの、ブルーノの笑い方で笑った。あまりに綺麗に笑うものだから、俺はただ、その未だ小さな肩を右手で抱き寄せて、自分の中に吸い込ませた。つめたく、あつい何かが、まるで行く先のない流れのように溢れて、蓋をした瞼から滲み出た。俺はこれを知っている。
 愛しさだ。
「ブルーノはもう、同じ場所に、立っている」
「本当?」
「ほら、今、この瞬間も、お前は俺と見ているだろう」
 未来を。
 そう言おうとしたが喉が震えて、もう声にはならず僅かにブルーノの髪を揺らしただけだった。迫る夕焼けの朱色はそれをやわらかく染めていた。手の中のブルーノがこれから受け止め、走り抜ける世界が、たとえ俺と共有したものでなくとも、確かに俺はブルーノという人間と世界を分かち合った。同じ場所に立ち同じものを見て同じ感情を互いの細胞ひとつひとつにまで刻み込んだ。それは揺るぎない歴史、永遠に瓦解することのない真理。だからきっと、ブルーノはブルーノの未来で、いつか俺と同じものを見るのだ。預言のように俺の中に書かれたそれは、あかい視界を更に色付けて、光に透かした宝石みたいにまばゆく輝いた。まるで、あの日の、あの瞬間の光みたいに。
 もうすぐ一日が終わる。そしてまた明日が来る。Dホイールから降りたブルーノは、紅葉みたいな掌を大きく掲げた。未来を掴むその手を俺に向けて、目一杯振った。
「また明日ね、遊星」
 振り返した腕は、彼みたいに、上手く弧を描けているだろうか。また明日お前に会ったら聞くとしよう。
「あぁ、また、明日」
 ブルーノの存在する世界が、また来る。畳む
よくある夢の結末
・未来ブルーノさん→遊星→ブルーノさんみたいなやつ。
・未来ブルーノさんに抱かれるけどブルーノさんを思い出してわあーーとなってくれ…。
#ブル遊 #IF

 同じ人間だ。至って簡単な理由。だから同じキスをするのだって当然なのだ。それでも俺の中では、目の前で幸せそうに俺に口付ける青年と、瞼の内側に思い出される青年とが、全く別の存在として浮かび上がるのだった。本質的な異質さが俺の全身を駆け抜ける。そうして、その衝撃で思い出したブルーノの姿が、否応なしに俺の中に再び焼き付いてしまって、気がつけば目尻に水が溜まっていた。
「……遊星、ごめ、なんで、泣いてるの……」
 ボクいまひどいことしたよね。そう言うブルーノに「違うんだ」と声を掛けたい、なのに胸の真ん中を強く打ち砕かれたように、俺は言葉もなにも吐き出すことができなかった。息すら掠れて、ただ只管天井をぼうと眺めるしかなかった。ブルーノはその手前で困惑した表情を浮かべて、どうしていいかわからない、と目で訴えていたが、何も伝えられない。記憶の中の彼の姿を追い求めていて、俺は、今ようやくそのことに気付いたのだから。ひどく愚かしい想いが、俺の罪を暴く。閉じた両目の奥に広がった、ブルーノという光の中に俺の影が映り込んで、彼の眩しさを汚す。
「遊星、遊星……ごめん、ごめんなさい、泣かないで、君に泣かれてしまうと、ボクは、……」
 ブルーノ。あぁブルーノ。済まない、ひどいことをしているのは俺なんだ。絶望をお前に与えまいとしたのに、俺は再び罪を重ねていたのか。やさしいお前に、これで何度悲しい思いをさせているのだろう。できる事ならこんな時代から逃げてしまって、あの、幸福な時間に戻りたかった。叶わぬから人はそれを夢と呼ぶ。夢だ。俺はもうすぐ目が覚めて、そしたら目の前で、あの彼が笑っているのだ。
 けれども瞼を開けたところで世界は変わっていなかった。哀情を滲ませた瞳が俺を見下ろしていて、記憶の中のブルーノと同じ手つきで青年は俺の髪を撫でる。
「遊星、お願いだから、そんな顔をしないで……」
 痛みを分かち合うように額をくっ付けて、ブルーノは俺を抱きすくめた。そのうち彼の肩が震え始めて、あぁ泣かせてしまったな、と、遠くでぼんやり思った。ただ俺はお前に笑って欲しいだけなのに。世界は未だ、俺の手に落ちてこない。畳む
ホーリーナイトに眠れ
・アンドロイドなブルーノちゃん。
・どこでもないどこか。
#ブル遊 #パラレル

 ブルーノの仕事の詳細を述べるならば以下のようになる。朝日が昇る頃に起床の為の声を掛けること。それから朝食の準備をすること。食事の際は必ず同席すること。食後から始まる研究及び実験のよき助手であること。昼食はとらずとも一杯のコーヒーは必ず用意すること。午後はどこかで休憩の合図を入れること。夕日を見送る時刻になったら一緒に散歩に出掛けること。帰宅して夕飯の支度をすること。暫く自由な時間を過ごさせたら日が変わるまでに就寝させること。そうして自分も共に側で眠ること。これらは問題が起こらない限り決まった動作として実行される。対象はある人物ただ一人、不動遊星。それがブルーノの役目であり、ブルーノが動いている理由であるから。ブルーノというのは、現在窓際の机に向かって配線を組み立てている青年、つまり不動遊星の友であり、彼の同居人であるロボットを指す。
 つまり、ボクだ。

「テスターを取ってくれ」
「はい、遊星」
 ストーブの焚かれた作業場で、遊星は拡大鏡を覗き込みながら自分の右手を宙に泳がせる。ボクはテスターを積まれた本の上に見つけると、急いでそれを遊星の手へと届けた。彼は「ありがとう」と呟いて再び作業に集中する。それを眺めながら、彼の手助けになることを組み込まれた回路の中で検索した。
 ボクは遊星に作られた。目が覚めた時から彼の為にしか存在しないし、彼と過ごした記録(人間でいう記憶)しかない。遊星に作られた、と言っても奴隷の様に扱われるなんてこともなく、彼の話し相手であり助手であり同居人として過ごしている。ボクの行動は全て遊星が組み立てたボクの心臓部、つまりシステムの中枢部によって決められている。だからボクが望んでいても出来ないことがあったりする。出来ないように規制コードが掛けられているからだ。別に誰かをこの手にかける様な危険な行動をしたいわけではないのだけれど。
 横目で見た窓ガラスに雪が引っ付いていた。それは直ぐに水滴に変わる。そういえば昨日天気予報が伝えていたっけ。
「遊星、今晩は雪が積もるそうだよ」
 ボクはアクセスポイントから配信される気象情報を遊星に伝えた。「そうか、ありがとう」と言って、遊星は拡大鏡を一度退けてから製作していた機器を持ち上げて、その出来栄えを様々な角度から確認している。満足したのか、一つ頷いてから彼はその機器をもう一度机の上に戻した。周囲に散らばったリード線の切れ端や半田の屑はそのままに、遊星はボクに視線を投げてくる。言いたいことは分かってるよ。そろそろ時間だもの。
「散歩に出掛けよう」
 遊星は緩やかに笑って立ち上がった。
 今日は当たり前だけれど夕日なんて出ていないし、そもそも雪雲に覆われた世界じゃ出たくても出てこれないだろう。既にうっすら白い化粧を施された道が、コートに包まれた遊星によって足跡を付けられていく。ブルゾンを着てはいるものの、不具合防止の為にもボクは傘を差して歩く。そして遊星も。彼の口元から、はふ、と吐かれた息が白くたなびいた。人間が生きている証拠だ。呼吸をして、歩いて、彼はボクの前を進んだ。
 遠くに立ち並ぶ針葉樹林が、その深緑色の肌を白粉がちらつく視界の中で霞ませていた。その木を見て、何処かで見たことのあるシルエットだなぁと思う。細長い三角形の綺麗な形。尖った先端。全身に纏う雪。あぁそうだ!
「クリスマスツリーみたいだね」
「そういえば今日はクリスマスだったな」
 そうだ、データベースの日程表を確認するのが先だった。成る程クリスマスに雪が降るなんてボクの記録上では初めてだ。ボクは作られてからそれ程年数が経っていないので。
「サンタクロース来るかな」
「来ないと分かってる癖に」
「まぁ君が入れてくれたデータを一番信用してるからね。でもネットワークで検索してみると、信じてる人はいっぱい居るみたいだけど」
「信仰は自由だ」
「そういう問題?」
 ふっと一つ笑みを浮かべて、遊星は煙った道にブーツの跡を残していった。ざりざりという飴玉を噛み砕いているような音がボクの擬似聴覚に伝わる。遊星の足跡を後ろから上書きしてついていくと、彼が左右に無秩序なステップを刻んだ。跳ねた黒髪が白の中で揺れる。粗末なダンスのような、その不定のリズムを追いながら、クリスマスについて考えてみる。
 サンタクロースが居ないなんてことは、ボクは知っている。ボクを作ったこの不動遊星という人物の優秀さから織り上げられたボクのデータベースには、言うなれば徹底した現実主義者のそれが書き込まれているのだ。そしてボクは作り主である彼を最も信頼している。だからどれ程願ったところでサンタクロースは来ないし、そもそも願うこともない。寂しい考え方だと笑う人も居るだろうけれど。

 さらさら降る小麦粉のような雪の中帰宅したボク等は、再び自分達の仕事に戻った。遊星は作業へ、ボクは夕飯の支度へ。今日は寒いから温かいものがいいだろう。ちなみにボクは食事は摂れないことはないけれども、基本的に味見する時以外は摂らない。必要がないからだ。でも遊星が共に食卓を囲みたいと願うから、ボクは毎日彼の食事風景を眺めている。
 食後、片付けを終わらせて作業場を覗くと、遊星がうとうとと舟をこぎ始めていた。発見してから十分が経過したところで、ボクは「もうベッドに入らなきゃ」と彼の肩を軽く叩いた。はっと夢の入口から引き上げられた遊星は、ぼんやりとした目で頷く。
「あぁ……」
 導くように、その右手をとって立ち上がらせる。かしゃりと机の上に転がった半田ごてのスイッチは既に切れていて、遊星が寝惚けていたことがよく分かった。熱くもないこてでどうやって溶かすというのだろう。苦笑しながらふらりと揺れる遊星を支えつつ、彼を寝室へと連れて行くことにした。一つだけ電灯の灯された薄暗い廊下を、時折隙間風がひゅるりと走り去っていく。この家も少し修繕しなければいけない時期にきているようだ。
 寝室は作業場の隣にある。部屋の明かりを点けると、一人掛けの椅子に適当に積まれた服や、床に投げ出されたまま暫く使われていない鞄が暗闇から起き上がって姿を現した。部屋の真ん中に置かれたベッドは、遊星がボクと共に寝られるようなベッドが欲しいと言ったためにボクが作ったものだ。間も無く其処へと到着した遊星の足元へしゃがみ込み、靴を脱がせ、彼の腕を持ち上げて着ているジャケットも脱がせていく。代わりに長袖のガウンを着せ、その肩をそっと押した。布団に吸い込まれていく彼に続いて、ボクも靴を脱いで隣に寝そべる。ブランケットを被ると、内蔵されているサーミスタが敏感に反応した。体温調節機能が人間によく似た温度に自動設定する。この機能のお蔭でボクでも遊星を温めることができる。
 枕元のスイッチを手探りで探し当てて押す。ふっと明かりの消えた部屋に、しんしんと、という表現がぴったりな雪の降る音が奏でられた。布団がまだ冷たく感じるのか、すぐ真横に寝転んだ遊星は身体をもぞもぞと動かしているものの、深い夢の中へ沈むのにはそう時間は掛からないだろう。ちなみにボクは睡眠の代わりに、睡眠状態だと考えられる一定の状態が継続した場合にスリープモードへと入ることになる。
 クリスマスの夜。ボクの頭上には靴下は用意されていない。だから仮に、万が一にもサンタクロースが来てもプレゼントを入れてもらえるところはないのだ。それを踏まえて、奇跡的にもサンタクロースが来たならばプレゼントは何が良いか、という仮定の上に成り立つ仮定を立ててみることにした。何故かというと、ボクには叶えたい事があるからだ。
「遊星」
「ん……?」
 おぼろげな返事も一緒に抱きかかえるように、ボクは正面から遊星を腕の中に閉じ込めた。センサーが感知するそのぬくもりがボクの感情回路を巡る。ぎしぎし唸るそれから絞り出すように、唇をゆっくり動かした。
「あ、い、」
 しかし次の言葉を発しようとした瞬間、びくっとボクの身体が硬直する。インタラプトエラー。ストッパーが作動したのだ。特定の動作を行おうとすると作動するそれによってブロックされたボクは、一定時間動くことが不可能になる。意識(と表現すべきかは甚だ疑問だ)は継続しているのだけれど、きゅううんと音を立てて固まった身体能力は、ストッパーそのものを外す解除コードを入力するか時間が経過するまで解かれることはない。
 動かなくなったボクの視界に、遊星の顔が映り込んだ。彼は笑っていた。ボクに零すその綺麗な笑みが好きだ。ボクの青い髪を映した深い群青色の瞳が好きだ。ボクの名前を呼ぶその声が、とても好きだ。
「想ってくれるだけで充分だ。それが俺のエゴで作られた嘘でも」
 遊星は苦しげにその美しい目を細めて、ボクにそっとキスをした。それに応える言葉をボクは持たない。否、持つことを許されない。十バイトのデータすら表すことのできないボクに、君は毎晩キスをする。感情を伝える術を持たないボクに、君はいつも心をくれる。
 サンタクロースが居るならば、一つだけ欲しいものがある。たった一言でいい、遊星に伝えることのできる言葉を与えてくれと、口に出せずに彼からのキスをただ甘受するボクに、雪の降りしきる音が染み渡った。畳む
悪夢なら醒めてほしい
・18歳ブルーノ×28歳遊星チーフ。
#ブル遊 #IF

 自分の実力を全力で発揮できる場所があるとしたら、それはそれは幸せなことだと思う。自分の価値も、存在意義も、満足感も得ることが出来る場所。それがあの人の隣だったらさぞかし自分はたまらなく幸せなんだろうなぁと、ブルーノは手元のキーを打ちながら呆けた頭で考えていた。眼前のモニターに映し出されているのは次の会議に使われる資料の一部だ。研究室には今、ブルーノとチーフの遊星しか居なかった。このシチュエーションはブルーノにとって本来悶絶ものであるはずなのだが、その胸中でうだうだと拗ねた子供のように廻る感情が邪魔をして、彼を素直に喜べる状態にしなかった。単純な切欠から遊星のプロジェクトチームに誘われたブルーノはその優秀な頭脳を惜しみなく発揮してはいたが、いまだ齢十八の彼に任される仕事といえば基本的には上司の資料作りの助手が主で、自由に動けるような立場ではない。責任を持たなくてよい代わりに責任のある仕事もさせてもらえない。役に立ちたいけれども何をしていいか分からない。霧の中で地図を見ているような気分がブルーノの心を曇らせる。
 憧れに似た恋だ。あの不動博士の息子であり現在はシティのシステムの根幹を支えている不動遊星という人間、その傍で働けることはブルーノにとって誇りであり、密かに慕っていた人物を知る絶好の機会だった。しかしその分常に不安を抱いていた。自分はチーフにとって何なんだろう? 何故ボクを誘ってくれたんだろう? 余計な期待がちらついて仕事が捗らないことも屡で、今この時もそうであった。ブルーノの蒼い目が左の方を盗み見る。まるで何かに突き動かされているかのようにプログラムを打ち続ける遊星の横顔には明らかに疲労が垣間見えている。こういう時上司なら上手くフォローできるんだろうな。そう思うと、自然とブルーノの口元から溜息が出た。出来ることなら、いや自分が今出来ることをやらなければ遊星との距離は近付くどころか離れるばかりだ。そう思い直し、ブルーノは席を立った。
「あ、あの、チーフ……」
 遊星の右側、一歩下がった場所からブルーノは声を掛けた。沢山のモニターのライトが遊星の細い顎や骨張った指を照らしていた。おずおずと、小声で話し掛けたブルーノに「どうした?」と声だけ返す遊星は、その手を動かし続けている。止まる気配はない。あぁ自分はどうして! 白衣を少し握り締め掌にうっすらと掻いた汗を拭ってから、ブルーノは緊張を打ち破るように、鼓舞するように、少し大きい声を出した。こういう時に役に立たなくてどうする、不動遊星は皆の中心なんだ!
「あのっ、チーフに、休んでほしくて」
 静かな研究室に思いのほか響いた声に、流石の遊星も手を止めた。ぱちくりと目を瞬かせて、そうしてブルーノを見上げた。年齢よりも若く見えるその相貌には少しの驚きの色が浮かんでいて、けれども直後に滲んだ寂寞が彼の両目を伏せさせた。疲労故かと思ったブルーノの声が上がる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ……いや……済まない、そうだな、そうだ……無理をするんじゃないと、いつも言われていたのに……」
 遊星の消えそうな声を拾い上げたブルーノは、その過去形の言葉にひくりと指先を強張らせた。違和感だった。いつも何処か、不動遊星から感じ取っていた違和感。それはどうしてか彼と自分との間に存在していて、気が付いた時にはなくなっているけれど確かにあったもの。自分が居て居ないような、それとも自分とは違う誰かと話しているような。
「あの……チーフにとって、ボクは、どんな存在なんでしょうか……」
 自分が発した言葉に二重の意味はなかった。言葉通りの意味で、ブルーノは遊星に問いを投げ掛けた。疎外感でもない、けれども不動遊星はブルーノという自分を何処か見えない膜の外から見ているような気がして、その心中を知りたかったのだ。認めてもらいたいのに、貴方は何処を見ているのかボクには分からない。羨望と恋慕の交じり合った、それだけの気持ちから出た言葉だった。
 けれども遊星の反応はブルーノの予想を裏切った。「仲間だ」だとか優しい社交辞令染みた言葉が返ってくると思っていたのに、遊星はまるで暴かれてはならないものを無理矢理覗かれたような目をして、戸惑いの表情でブルーノを見上げていた。喉に何かを詰まらせているみたいに回答に困っていて、それはブルーノをひどく不安にさせた。不安は怯えと同時に相手との一体感を望む。誰かとの繋がりを切望させる。ブルーノの手が、遊星の肩に伸びるのに然程時間は掛からなかった。きっと指先は冷え切っているだろうな。触れた白衣の表面は草臥れていて、疲弊し切っているんだと主張しているように思えた。
「ボクは、チーフのお役には、立てませんか」
 その言葉が遊星にとって希望も絶望も与えるものだということを知っていたならば、自分は言わなかっただろうか。それとも心を手に入れる為に口にしていただろうか。どちらにせよ、今のブルーノには考えも及ばないことだった。畳む
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