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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

兄にブチ切れる口の悪いⅢ
・たぶんパラレル。
・捏造トロン兄弟。
#トロン兄弟

「え、……あの、兄様? その仕事って先週始めたばかりですよね。何でもう辞めてるんですか? 何でですか? 何で貴方って最低でも三ヶ月働けないんですか? 馬鹿なんですか? あ、分かった兄様馬鹿なんでしょ。うん分かってました。分かったからとっとと働けこの穀潰しが!!」
 春の午後、柔らかな日の光に満たされた華やかな部屋。スマホに向かって叫んでいたⅢの声が漸く止まったかと思い振り向くと、彼は肩を上下させ息を整えようと頑張っていた。彼は色んなことに対して一生懸命頑張る子で、小さい頃からそうだった。兄として誇りに思う。一方もう一人の弟でありⅢの兄であるⅣは、その日暮らしの生活をし、金を私達にせびて、自分のことを棚にあげ人に説教するというある意味肝の据わった奴である。口が達者で、二重人格なのかと思う程別の自分を造ることが出来る変わった奴でもある。私は昔から、Ⅳに最も適した職業は詐欺師ではないかと思っているが、Ⅲが悲しむだろうから言わないままかれこれ数年が過ぎてしまった。
「Ⅲ……」
「Ⅴ兄様、僕はもう我慢なりません。Ⅳ兄様ったらまた仕事辞めたんですって。しかもこの間なんて、先月とは違う女性を連れていて! とっかえひっかえしているに違いありません! 女の敵です!!」
「その言葉、きっと世の女性達に届いていると思うよ」
 Ⅲは優しい子なのだ。Ⅳの所為で不幸になる女性を見たくないのだろう。そして兄を止められない不甲斐無い弟なのだと自分を責めている。手にしていたカードを机に置いて、私はⅢを手招きした。
「取り敢えずこちらに座って落ち着きなさい」
「あ……済みません、取り乱してしまって……」
 Ⅲはすっかりしょげてしまった。叱られた子犬、構ってもらえない子猫。溜息と共にソファに腰掛けたⅢの前に、紅茶を一杯差し出す。甘めのロイヤルミルクティー。その隣にマカロンを添えれば、弟の表情は少し緩む。
「僕のスマホに不在着信があるといつも思うんです。あぁまた仕事辞めたんだって……でも何故かⅣ兄様の懐は常に苦しんでいないんですよ。どうしてだと思います? 色んな人が貢いでくるらしいんですよ。信じられません……」
「まぁ、世の中には物好きというものが居るからな」
「僕は早く自立して欲しいのに!!」
 わぁっと両手で顔を覆う弟をよしよしと慰める。然しながら弟に早く自立しろと心配される兄とは一体どうしたものか。
 片方が駄目ならもう片方がしっかりする、というのは兄弟姉妹によく見られる関係だ。しかしどちらかが出来が悪いからと言って全てを否定するのは良くないと思う。罪を憎んで人を憎まず、だろうか。世の中は平等とはいかないし、それが面白いところでもある。Ⅲが持っていないものを持っている誰かが居て当然で、その逆も当然で。ただ、分かっていても分かりたくないものが、彼等には多いのだろう。
「Ⅲ、今度Ⅳが来たら沢山口喧嘩をしなさい。あいつはああ見えて寂しがりだから、怒ってもらいたいと思っているのさ」
「僕、拳が出てしまう自信があります」
「……まぁ、程々にな」
「はい」
 あー美味しかったですご馳走様でした! ぐっと紅茶を飲み干してⅢは立ち上がった。その顔には笑顔が満ちて、まるで春が具現化したかのような華々しさだった。すっきりしました、と言って弟はリビングを後にしようとドアノブに手をかけた瞬間、Ⅳのハイテンションな声が家中に響き渡って、Ⅲの堪忍袋が切れる音を耳にした。
 仲の良い兄弟だ。畳む
初詣する話
・大昔に参加したインテの無配ペーパーに載せたもの。
・カイ遊ぽくしたかったけどできなかった。
 #カイト #カイ遊

 社務所の前で、がしゃがしゃがしゃ、と六角形の筒を両手で持ち振っている。その遊馬の表情は嬉々としており、それが理解出来ずにいたカイトは眉を寄せて「何をしている」と訊ねた。境内には人が溢れ返っている。往来する参拝客が時折カイトの肩や背にぶつかっては去っていく。トレンチコートの肩を払いながら舌打ちをすれば、遊馬が「新年早々そんなことすんなよ」と注意してきた。
「人混みは嫌いだ……で、それは何だ」
「知らねーの? お御籤だよ。お、み、く、じ」
「知らない」
「えっまじで! そっか……よっしゃ、じゃあカイトが引いて良いぜ」
「だから何を」
「だからお御籤だってば」
 瞬間、二人の声を吹き飛ばすほどの強い風が駆け抜ける。寒い。冷たい。カイトの顔がつい顰め面になるが風は直ぐに落ち着き、辺りには再び甘酒と薪の焼ける匂いが漂い始めた。しかしどれもこれもカイトには経験の無いものばかりだ。酒粕と砂糖で作る飲み物も、賽銭を投げ入れて手を合わせることも。
 片手でモッズコートの襟を直して、遊馬は向かい合う少年に筒を持たせた。「まずはシェイク! ほら、振るんだよ!」手袋に包まれた遊馬の両手が怪訝そうにしているカイトの手に重なる。毛糸の柔らかい感触と体温にカイトは思わず身をかたくしたが、その手は遊馬によって上下左右に滅茶苦茶に動かされる。がしゃがしゃがしゃがしゃがしゃ。何度か繰り返してから漸く止まった。
「こうしたら、一本引く!」
 手取り足取りお御籤の引き方を教える遊馬は何処か誇らしげだ。少々気恥ずかしくなりつつも、カイトは言われるがままに筒を逆さにして一本の棒を出した。その先端には小さな文字が書かれている。
「……二十、番」
「おし! 巫女さーん、二十番だって!」
 社務所の窓から呼び掛ける。待て、何をする気だ。流れに任せていたカイトに、巫女が窓から一枚の紙を差し出した。細長いそれは僅かにたなびいている。
「な、何だ」
「受け取れって」
 恐る恐る、そろりと右手を伸ばす。にこやかに笑う巫女が「良かったね」と一言。意味が分からないままカイトは受け取った紙に目を落とした。
「……おお、きち?」
「だいきち、な。良かったじゃんカイト!」
「だいきち……」
「おー、大吉。一番良い運勢ってこと!」
 今年は良い年になるぜ! 心の底から笑っていると分かる遊馬の表情。それを見て、カイトの頬が少し緩む。遊馬の笑顔を見ていると落ち着くのだ。そして何か、ほうっと心に湧き上がるものがあることに気付く。希望に近い、何か。ぼんやりとした道が、はっと明確になるような。
 良い年に、なるだろうか。いや、きっとなる。遊馬が言うのだから、その予言は実現する。境内へ走り出す遊馬を見失わないようにしながら、カイトは未来を告げる紙を小さく握り締めた。畳む
バランスゲーム
・大昔に参加したインテで無配ペーパーに載せたもの。
#カイト

 整列した物体に美しさを感じるのは規則性に従って何の綻びも無く並んでいるからだと思う。それに比べて乱雑に放置されたものは完成した絵画に墨を投げ入れたかのような汚らしさしか感じない。カイトは床に散らばったカードを見下ろしながらそう思った。まるで動物の死体でも眺めるみたいに冷め切った瞳で。その犯人が自分自身であるにもかかわらず、カイトは嫌悪感を抱いた表情でその光景をただ見ていた。
 眼前に戦う相手が居ないのに白い衣服を纏ったままなのはただの気紛れだった。その服装のまま自室に足を踏み入れた時、机の上に置かれたジェリービーンズと苺のショートケーキがまず目に入った。自分からは決して手に入れようとしないそれらが色味の欠けた室内に不自然なほど濃く浮かび上がっていた。陶器の器に盛られた色とりどりのジェリービーンズと大きな苺が丸ごと飾られた白いケーキが一切れ。微かに匂った甘い香りがカイトの眉を顰めさせる。頼んでもないのにこんな下らないことをする奴はあいつしかいない。草色の髪を撫で付ける男の顔が浮かんで、苦虫を噛み潰したような表情でカイトは思い切りカードを床へ投げ付けたのだった。
 カードの横を通り抜け、角張った机に近寄る。カイトは卓上に置かれたジェリービーンズをがっと掴むとそれも床へ投げた。ばらばら散らばる七色の粒。均衡の崩壊。
「くそ」
 隣にあるケーキの苺。ルビー色の果実を摘まんで少し力を込める。するとあっという間に苺は潰れて、紅色の汁が指先からカイトの手首へと伝った。まるで血液だ。白い服にぽたりと零れた雫はすぐに滲んで赤い痕跡を残した。数回咀嚼してから飲み込む。微かに冷たい感触が喉を通り抜け彼の胃に落ちた。
 美しい形のショートケーキは宝石を奪われて写真のない写真立てのように味気の無い姿を晒している。これで少なくともこの部屋の中の調和は全て崩れた。カイトは漸く皺を刻んでいた眉間を緩めると、芳香を放つ実を口に含んだ。破壊されたというのに苺は完璧なほど甘く、酸っぱく、そして美味だった。
 残された最後の秩序が舌の上で踊る。その味に再び眉を寄せながら、しかしカイトの口元はほんの少しだけ、解けていた。これでやっと全部壊れたな。畳む
朝の挨拶
・ほぼアストラルしか喋ってない。
#アストラル

 朝陽の透き通る指先越しに遊馬を見る。時計はとうに登校時刻を示しているが本日は問題ないようだ。それも何も遊馬は今「ナツヤスミ」とやらに突入して、毎日遅刻してもいい。のだそうだ。だから私は時計が七時を越えても、八時を越えても、九時を越えても声を掛けなかった。誰にも邪魔されず眠る遊馬を、ただ見ていた。
 遊馬は呼吸をしていた。人間は皆呼吸をする。上下する胸を、彼と同じように横たわりながら(但し私の場合は空中である)見てみると、くーかーという音がより近くで聞こえた。彼の口元から漏れるその音は、断続的かつ心地良い一種のリズムを有し、私の中に到着する。ペンダントが私の媒体であるならばそれを伝っているのかと思うほどひたりと自分のすぐ傍に感じた。「遊馬」殆ど声にならない声でひっそり名を呟いた。案の定遊馬は起きない。瞼は寸分も開かれず、ハンモックという名の寝床の中で彼は未だ眠り続けている。もうすっかり日は高くなったというのに。部屋の外はぎらぎらとねめつけるような熱線で白く照らされていて眩しい。
 朝は巨大な始まりの合図だ。音も無く、時には光さえなく訪れる転換の目印。遊馬はいつも私にお早うと告げ人間の一日を開始させる。お早う。初めて耳にした際はその効果のほどを訊ねたが、遊馬に意味を説明されてカードに何の関係もなかったことを少々残念に思ったことを覚えている。この世界に来てからの私の記憶の中で遊馬に聞かされたお早うは今日で何回目になるだろうか。お早う。「始まりの合言葉」、だそうだ。記憶しておこう。そう答えると、遊馬は「そうしとけ」と笑っていた。彼の言う意味を当て嵌めるならば、初めて彼と出逢った瞬間、私は彼にお早うと告げなければならなかったことになる。何故ならこの世界での私の始まりが其処にあるから。お早う遊馬。そう言わなければならなかったのだ。しかし私は無知故に何も告げず彼の世界へと足を踏み入れた。それは非礼として詫びるべきだろうか、遊馬が起きたら聞いてみようと思う。
 夜になると遊馬は「お休み」と言って眠りにつく。つまり今現在の彼は、昨夜「お休み」と告げてからずっとこの状態のままなのだ。お休み。遊馬が説明した意味は「寝る前の挨拶」。しかし彼が眠っている間私は彼と話すことはない。何時間も彼の声を聞かず、ただその口がお早うと形作るまで私は一人だ。誰にも認識されず誰とも会話せずただ夜闇に溶け込む身体を見詰めている。月影が部屋に忍び寄ったとしても抵抗する術を持たない。私は一人。この世界で私を見ているのも遊馬一人。だから私にとってのお休みは遊馬との一時的な別離を意味する。昨夜も私は彼に別れを告げた。「お休みアストラル」「お休み遊馬」彼は夢の世界へ旅に出た。だから旅から戻ったら、朝になったら、またお早うと言って始まるのだ。
「お早う遊馬」
 もう、朝だ。畳む
歪曲の正当性
・天城兄弟とMr.ハートランド。
・自分の行動が家族愛からなのか自分が縋ってるだけなのか分からなくなってきたカイトくん。
・カイトがちょっと病んでる。
#カイト
 
 「君が求めているものは何だね? 愛かね? それとも救いかね?」
 ハートランドはそう言って俺の顔をじいっと覗き込んできた。じいっと、と表現したのは、その顔には浮かべられた聖者のような笑みの柔らかさとは裏腹なねちっこい何かが一緒に張り付いているように見えたからだ。一歩間違えばにやにや。そんな笑い顔だった。
 「何故そんな質問をするのですか」
 俺の声はいつも通り単調な、冷静な声だ。そのはずだ。表情を崩さないままMr.ハートランドは背を伸ばして、ぐっと落としていた頭を元の位置へと直した。それからスーツの裾を引っ張って皺を伸ばし、改めて俺を見た。演技染みた雰囲気が男の所作を作り物のように見せる。
 「なあに、私への視線に混じっているものがあるから。寂しいかね? 弟と、たった二人で生きるこの世は」
 苛々した。ハートランドの、全部分かっているんだよと言いたげな言葉は気持ちが悪かった。相手の心を見透かしているような会話。だがそこにはいくつもの絡まり合った線がある。こいつは分かっているようで分かっていない。
 「いえ何も」
 「ハルトを救う以外は?」
 救う。
 本当に、救えるのか? いつも疑問を抱きながら俺はハルトに会っていた。それがいつ暴かれるか、その瞬間に怯えながら。「はい。ハルトを救う以外に、目的はありません。残りは手段だけです」自分が口にした言葉に嘘はなかった。けれどもずん、と体内に滲んだ何かが、俺を嘲笑う。
 ふむ。一息ついて、その顎に添えられていたハートランドの右手がぬらりと動いて俺の頭に置かれた。咄嗟に退けようとしたのに出来なかったのは、そのあまりの自然さ故だ。
 「カイト。人間になりたいなら、他人に甘えることだよ。さて君は、再び人間として生きたいかな? 自分はどう生きたいか考えたことはあるかね?」
 そう言い残してハートランドは部屋を去っていった。俺の頭には生温い残像だけが残っている。髪に手をやると、少し崩れたそれに触れた。完璧に整えたはずの俺の全てを崩していく、あの男が、気に入らなかった。
 
 ハルト。俺の唯一の道標。俺の理由であり理念。ハートランドシティの遊園地は毒々しいネオンライトに彩られて輝いている。夢を生み出し、夢に酔わせる空間を、ハルトは冷めた目で見下ろしていた。
 「なぁハルト、今日はどんな一日だった? 兄さんに聞かせてくれ」
 「兄さん」
 「なんだ?」
 「あれ、どうしてハート型にしたのかな」
 弟が指差したのはピエロが手にしている風船だった。いくつもの風船を手にして、道行く子供達に渡しているピエロ。白い面に描かれた流線型も不自然に上がった口角も不気味で、遊園地には不必要なものに思える。夢の中で踊るあいつは心の形をした割れ物を配っている。
 「あの人はどうして偽物の心を配っているんだろうね」
 ハルトはそう呟いて、ふふ、と小さく笑った。硝子窓に置かれた小さな掌が、その向こうの夜闇にずるりと溶け込んでいきそうだった。その手に右手を重ねた。このまま窓が割れればハルトも俺もこの塔から落ちて死ぬ。あの夢の世界に落ちて死ぬ。
 「あいつが偽物だからだ。偽物だから、偽物の心しか持ってないからだ。偽物だから……俺達の立っている場所はあんなまがい物なんかじゃない、もうすぐその偽物は崩れるんだ、俺が壊してやるんだ……」
 ハルトは震えていた。手から伝わるそれは俺の全身に巡った。いや違う震えているのは俺だ。俺の手が、ハルトと繋がる掌が震えているのだ。何故だ。
 「兄さん、怖いの?」
 窓に映り込んだハルトの顔、その口元が綻んでいるのが見えた。その上には俺が居る。青白く、強張らせた表情で、何に怯えているんだお前は。
 「怖く、ないさ。お前が居るから」
 ピエロは眼下で笑っている。泣きながら、嘲笑っている。夢の中で。
 ハルトに縋る俺の感情が果たして親愛と呼べるものなのか判断が付かない。それは偶像崇拝に近い、祈りなのではないか。ほどけた俺の片隅が絡み付くための拠り所。ハートランドの言葉は俺の崩壊を誘う。他人に甘えろとあいつは言う。他人とは、誰だ。俺はハルトしか知らない。ハルトの全てが俺の知る全て。だが其処に俺は居るのか? 俺は何処に存在しているのだ。委ねた先に居ないのならば。
 「ハルト、ハルト、俺は此処に居るか?」
 硝子の中からハルトが答えた。
 「居るよ。兄さんは、僕と同じ場所に居るんだよ。ずっとね」畳む
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