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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

初詣する話
・大昔に参加したインテの無配ペーパーに載せたもの。
・カイ遊ぽくしたかったけどできなかった。
 #カイト #カイ遊

 社務所の前で、がしゃがしゃがしゃ、と六角形の筒を両手で持ち振っている。その遊馬の表情は嬉々としており、それが理解出来ずにいたカイトは眉を寄せて「何をしている」と訊ねた。境内には人が溢れ返っている。往来する参拝客が時折カイトの肩や背にぶつかっては去っていく。トレンチコートの肩を払いながら舌打ちをすれば、遊馬が「新年早々そんなことすんなよ」と注意してきた。
「人混みは嫌いだ……で、それは何だ」
「知らねーの? お御籤だよ。お、み、く、じ」
「知らない」
「えっまじで! そっか……よっしゃ、じゃあカイトが引いて良いぜ」
「だから何を」
「だからお御籤だってば」
 瞬間、二人の声を吹き飛ばすほどの強い風が駆け抜ける。寒い。冷たい。カイトの顔がつい顰め面になるが風は直ぐに落ち着き、辺りには再び甘酒と薪の焼ける匂いが漂い始めた。しかしどれもこれもカイトには経験の無いものばかりだ。酒粕と砂糖で作る飲み物も、賽銭を投げ入れて手を合わせることも。
 片手でモッズコートの襟を直して、遊馬は向かい合う少年に筒を持たせた。「まずはシェイク! ほら、振るんだよ!」手袋に包まれた遊馬の両手が怪訝そうにしているカイトの手に重なる。毛糸の柔らかい感触と体温にカイトは思わず身をかたくしたが、その手は遊馬によって上下左右に滅茶苦茶に動かされる。がしゃがしゃがしゃがしゃがしゃ。何度か繰り返してから漸く止まった。
「こうしたら、一本引く!」
 手取り足取りお御籤の引き方を教える遊馬は何処か誇らしげだ。少々気恥ずかしくなりつつも、カイトは言われるがままに筒を逆さにして一本の棒を出した。その先端には小さな文字が書かれている。
「……二十、番」
「おし! 巫女さーん、二十番だって!」
 社務所の窓から呼び掛ける。待て、何をする気だ。流れに任せていたカイトに、巫女が窓から一枚の紙を差し出した。細長いそれは僅かにたなびいている。
「な、何だ」
「受け取れって」
 恐る恐る、そろりと右手を伸ばす。にこやかに笑う巫女が「良かったね」と一言。意味が分からないままカイトは受け取った紙に目を落とした。
「……おお、きち?」
「だいきち、な。良かったじゃんカイト!」
「だいきち……」
「おー、大吉。一番良い運勢ってこと!」
 今年は良い年になるぜ! 心の底から笑っていると分かる遊馬の表情。それを見て、カイトの頬が少し緩む。遊馬の笑顔を見ていると落ち着くのだ。そして何か、ほうっと心に湧き上がるものがあることに気付く。希望に近い、何か。ぼんやりとした道が、はっと明確になるような。
 良い年に、なるだろうか。いや、きっとなる。遊馬が言うのだから、その予言は実現する。境内へ走り出す遊馬を見失わないようにしながら、カイトは未来を告げる紙を小さく握り締めた。畳む
バランスゲーム
・大昔に参加したインテで無配ペーパーに載せたもの。
#カイト

 整列した物体に美しさを感じるのは規則性に従って何の綻びも無く並んでいるからだと思う。それに比べて乱雑に放置されたものは完成した絵画に墨を投げ入れたかのような汚らしさしか感じない。カイトは床に散らばったカードを見下ろしながらそう思った。まるで動物の死体でも眺めるみたいに冷め切った瞳で。その犯人が自分自身であるにもかかわらず、カイトは嫌悪感を抱いた表情でその光景をただ見ていた。
 眼前に戦う相手が居ないのに白い衣服を纏ったままなのはただの気紛れだった。その服装のまま自室に足を踏み入れた時、机の上に置かれたジェリービーンズと苺のショートケーキがまず目に入った。自分からは決して手に入れようとしないそれらが色味の欠けた室内に不自然なほど濃く浮かび上がっていた。陶器の器に盛られた色とりどりのジェリービーンズと大きな苺が丸ごと飾られた白いケーキが一切れ。微かに匂った甘い香りがカイトの眉を顰めさせる。頼んでもないのにこんな下らないことをする奴はあいつしかいない。草色の髪を撫で付ける男の顔が浮かんで、苦虫を噛み潰したような表情でカイトは思い切りカードを床へ投げ付けたのだった。
 カードの横を通り抜け、角張った机に近寄る。カイトは卓上に置かれたジェリービーンズをがっと掴むとそれも床へ投げた。ばらばら散らばる七色の粒。均衡の崩壊。
「くそ」
 隣にあるケーキの苺。ルビー色の果実を摘まんで少し力を込める。するとあっという間に苺は潰れて、紅色の汁が指先からカイトの手首へと伝った。まるで血液だ。白い服にぽたりと零れた雫はすぐに滲んで赤い痕跡を残した。数回咀嚼してから飲み込む。微かに冷たい感触が喉を通り抜け彼の胃に落ちた。
 美しい形のショートケーキは宝石を奪われて写真のない写真立てのように味気の無い姿を晒している。これで少なくともこの部屋の中の調和は全て崩れた。カイトは漸く皺を刻んでいた眉間を緩めると、芳香を放つ実を口に含んだ。破壊されたというのに苺は完璧なほど甘く、酸っぱく、そして美味だった。
 残された最後の秩序が舌の上で踊る。その味に再び眉を寄せながら、しかしカイトの口元はほんの少しだけ、解けていた。これでやっと全部壊れたな。畳む
歪曲の正当性
・天城兄弟とMr.ハートランド。
・自分の行動が家族愛からなのか自分が縋ってるだけなのか分からなくなってきたカイトくん。
・カイトがちょっと病んでる。
#カイト
 
 「君が求めているものは何だね? 愛かね? それとも救いかね?」
 ハートランドはそう言って俺の顔をじいっと覗き込んできた。じいっと、と表現したのは、その顔には浮かべられた聖者のような笑みの柔らかさとは裏腹なねちっこい何かが一緒に張り付いているように見えたからだ。一歩間違えばにやにや。そんな笑い顔だった。
 「何故そんな質問をするのですか」
 俺の声はいつも通り単調な、冷静な声だ。そのはずだ。表情を崩さないままMr.ハートランドは背を伸ばして、ぐっと落としていた頭を元の位置へと直した。それからスーツの裾を引っ張って皺を伸ばし、改めて俺を見た。演技染みた雰囲気が男の所作を作り物のように見せる。
 「なあに、私への視線に混じっているものがあるから。寂しいかね? 弟と、たった二人で生きるこの世は」
 苛々した。ハートランドの、全部分かっているんだよと言いたげな言葉は気持ちが悪かった。相手の心を見透かしているような会話。だがそこにはいくつもの絡まり合った線がある。こいつは分かっているようで分かっていない。
 「いえ何も」
 「ハルトを救う以外は?」
 救う。
 本当に、救えるのか? いつも疑問を抱きながら俺はハルトに会っていた。それがいつ暴かれるか、その瞬間に怯えながら。「はい。ハルトを救う以外に、目的はありません。残りは手段だけです」自分が口にした言葉に嘘はなかった。けれどもずん、と体内に滲んだ何かが、俺を嘲笑う。
 ふむ。一息ついて、その顎に添えられていたハートランドの右手がぬらりと動いて俺の頭に置かれた。咄嗟に退けようとしたのに出来なかったのは、そのあまりの自然さ故だ。
 「カイト。人間になりたいなら、他人に甘えることだよ。さて君は、再び人間として生きたいかな? 自分はどう生きたいか考えたことはあるかね?」
 そう言い残してハートランドは部屋を去っていった。俺の頭には生温い残像だけが残っている。髪に手をやると、少し崩れたそれに触れた。完璧に整えたはずの俺の全てを崩していく、あの男が、気に入らなかった。
 
 ハルト。俺の唯一の道標。俺の理由であり理念。ハートランドシティの遊園地は毒々しいネオンライトに彩られて輝いている。夢を生み出し、夢に酔わせる空間を、ハルトは冷めた目で見下ろしていた。
 「なぁハルト、今日はどんな一日だった? 兄さんに聞かせてくれ」
 「兄さん」
 「なんだ?」
 「あれ、どうしてハート型にしたのかな」
 弟が指差したのはピエロが手にしている風船だった。いくつもの風船を手にして、道行く子供達に渡しているピエロ。白い面に描かれた流線型も不自然に上がった口角も不気味で、遊園地には不必要なものに思える。夢の中で踊るあいつは心の形をした割れ物を配っている。
 「あの人はどうして偽物の心を配っているんだろうね」
 ハルトはそう呟いて、ふふ、と小さく笑った。硝子窓に置かれた小さな掌が、その向こうの夜闇にずるりと溶け込んでいきそうだった。その手に右手を重ねた。このまま窓が割れればハルトも俺もこの塔から落ちて死ぬ。あの夢の世界に落ちて死ぬ。
 「あいつが偽物だからだ。偽物だから、偽物の心しか持ってないからだ。偽物だから……俺達の立っている場所はあんなまがい物なんかじゃない、もうすぐその偽物は崩れるんだ、俺が壊してやるんだ……」
 ハルトは震えていた。手から伝わるそれは俺の全身に巡った。いや違う震えているのは俺だ。俺の手が、ハルトと繋がる掌が震えているのだ。何故だ。
 「兄さん、怖いの?」
 窓に映り込んだハルトの顔、その口元が綻んでいるのが見えた。その上には俺が居る。青白く、強張らせた表情で、何に怯えているんだお前は。
 「怖く、ないさ。お前が居るから」
 ピエロは眼下で笑っている。泣きながら、嘲笑っている。夢の中で。
 ハルトに縋る俺の感情が果たして親愛と呼べるものなのか判断が付かない。それは偶像崇拝に近い、祈りなのではないか。ほどけた俺の片隅が絡み付くための拠り所。ハートランドの言葉は俺の崩壊を誘う。他人に甘えろとあいつは言う。他人とは、誰だ。俺はハルトしか知らない。ハルトの全てが俺の知る全て。だが其処に俺は居るのか? 俺は何処に存在しているのだ。委ねた先に居ないのならば。
 「ハルト、ハルト、俺は此処に居るか?」
 硝子の中からハルトが答えた。
 「居るよ。兄さんは、僕と同じ場所に居るんだよ。ずっとね」畳む
詐欺師の館
・Mr.ハートランドとカイト。
・VJ版の捏造。
・きっとギャグ。
#カイト

 この糞爺! と、声を大にして叫んでやりたかったが、その瞬間脳裏に命よりも大事な弟の顔が浮かんで、カイトはぐっと苦々しい怒りを飲み込んだ。この野郎、狸、エセインテリめが。心中であらゆる罵倒を浴びせながら、ハートランドシティの中枢部、その一室でカイトは足元で自分を見上げている鉄の塊に目を遣った。
「カイト様、カイト様」
 大きい虫眼鏡みたいなレンズ。その奥で何を考えているのか知らないが、存在自体にハートランドの妙な意図を感じてカイトの眉がひそめられた。オービタルセブン、とハートランドは呼んだ。貴方にも助手が必要でしょうからね。
 俺を監視する為だろうが。助手とか言いやがって、胸糞悪い。
 舌打ちして、カイトのブーツの踵が機械の胴体を蹴り上げる。「ワアア」と悲しいのかよく分からない人工的な声を上げオービタルセブンは壁際まで吹っ飛んだ。ごろごろごろごろごろがしゃんごとん。「カイト様、ヒドイ」どうやらこの程度では壊れないようだ。カイトは鼻で笑った。
「おやいけませんね。乱暴はどの時代でも崩壊を招くのですよ」
 その時、部屋の入口から聞きたくなかった声がして、カイトの目に苛立ちの炎を宿らせる。
「Mr.ハートランド……すみません、言うことを聞かなかったので、つい」
「君を守る為にもオービタルセブンは必要なのですよ。君を守ることはつまり、ハルトを守ることに直結している……解りますね?」
「……はい」
「それは何より」
 かつかつと、革靴が規則的な足音を刻む。
 カイトはこの部屋が嫌いだった。自室として与えたくせに、造りは徹底的に無駄を排除し、そこに居る人間を管理していますと言わんばかりの空虚さ。冷たい壁は閉じ込める為の氷の蓋。そう思えてならない。
「カイト」
 ハートランドが目の前に立つ。足元に落とされていたカイトの視線が、ハートランドの指先によってぐんと上げられる。
「君が頼るべき聖典は私だということを忘れないよう」
「……はい」
 自分の顎に触れるハートランドの手を振り払えない。その悔しさで涙が滲みそうになり、カイトは奥歯をぎりりと噛み締めた。それを気にする風もなく、まるで人形を可愛がるかのようにハートランドはカイトの頬を一撫でした。感触にカイトの背にぞわりと悪寒がはしる。一挙一動が気色悪いんだよ触れるな離れろ!
「カイト。ハルトの為にも、君は殉教者であるべきなのです」
 ハルト。ハルト。ハートランドが口にする弟の名は恐ろしいほどの効力を発揮する。カイトを縛り、従順にならざるをえなくさせる。それを最も理解しているのがカイト自身だった。宝物の名前を出されては、カイトは笑みを浮かべながら自分を見下ろす男にこう答えるしかないのだ。
「は、い」
 糞野郎絶対シメる。
 オービタルセブンは壁際で転がったままである。畳む