から

@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

デッドオアドライブ
・十代とジムと可哀想なオブライエン。
・書いてる本人はジム十のつもり。
#ジム十 #現代パラレル

 右を見ても左を見ても荒野が地平線まで続き、更には切り立った岩山が連なる大自然。その中を只管一直線に進むのなら爽快で楽しかろう。まるで洋画のエンドロールのように。
 しかし此処は何処だ? ご覧の通りビル街だ。歩道に溢れるのは風に巻き上げられた草の塊ではなくスーツに身を包んだ人々だ。車の窓から垣間見える彼らの表情は訝しげなものばかりでお騒がせして申し訳ないと謝りたくなる。その間もボトルホルダーのペットボトルががたがたと揺れて五月蝿かった。今にも飛び跳ねてしまうのではないかと心配で、オブライエンは仕方なくそれを手の中に収めることにした。膝の上で持っておくのが最も安全だろうと思ったのだ。そうしているうちに今まで車窓をひゅんひゅん過ぎていた人々の影がのろくなり、かと思っていたら唐突なブレーキと共に車は停止した。視界の端に赤信号が見える。毎度この停まり方はやめてほしい、と信号毎に深まっていく溜息をついて、後部座席からの光景をオブライエンの目が捉えた。
 右には鰐のカレンが居て、その前の助手席にはハンバーガーを袋から出す十代が居て、買ったばかりのそれを彼から受け取るジムは運転席から不思議そうに自分を振り返っている。「どうした、オブライエン? 眠いのか?」どうしたもこうしたも、前を向け前を! 愉快で堪らないといった風なジムの隣で十代が指差す。
「あ、信号青だぜ」
「早いな。ブレイクを取るのはやはり高速に乗ってからかもしれない」
 時速百キロを越す中での休憩など勘弁願いたい。オブライエンの心中などこれっぽっちも察することなく、彼ら三人と一頭を運ぶクーパーは標識に従って高速道路を目指していく。
 映画のように、或いは自分の母国のように開けっ広げの道を疾走するならばこんなにも心臓に冷や汗を掻くこともあるまいが、アクセルを踏む時もブレーキを踏む時もジムの運転はダイナミックであるから落ち着く暇を与えてくれない。けれども十代やカレンは慣れたものなのか動じずにいてそれどころか食事を楽しむ有様なので、驚きを通り越して一種の畏怖をオブライエンに抱かせたくらいだった。落ち着く為にペットボトルの口を開け、烏龍茶を一口、二口喉へ注ぐ。その間もジムは容赦なくスピードを上げるので、せめて料金所を抜けるまでは落ち着いて走ってくれと飲みながら願った。
 そもそも本日快晴の元にオブライエンがこうしているのは十代から「良い天気だから駅前に九時集合な」とメールがあったからで、突然の呼び出しだが十代のやることといえば多少奇天烈な内容でも総じて面白いものに違いないと判断したから来たまでだ。だがジムが加われば事情は異なる。都合が悪いという意味ではない、奇天烈さが格段に上がるのだ。例えば先月はフィールドワークと題して一泊二日の登山に連行されたし、その前は暑いから川に行くと言われてついて行ったらせせらぎが美しい川ではなく互いの声を聴き取るのがやっとというくらい轟音を響かせる滝だった。活動的なのが十代とジムの共通点なので二人が合わさると相乗効果となるらしい。
 さてここで本日待ち合わせ場所に現れたのが、制限速度を明らかに超えていると思われる青のクーパーだった時の俺の気持ちを想像してもらいたい。十代は車を持っていない。ということは他の誰かが運転し十代を連れてきたということだ。その誰かが誰だと特定するのにものの一秒もかからなかった。
「ヘイ! 十代からコールされて来たぜ!」
 左ハンドルの運転席、その窓に長身を無理やりねじ込んでいたのはオブライエンの予想通りの人物で、ああ畜生! と彼が顔を覆ったのも致し方あるまい。

「このまま暫く道なりだなあ」
 広げていた地図を閉じ、十代はハンバーガーに食らいつきながらもごもごと言った。トラックを追い抜きつつ平日の高速道路を駆け抜けて、この車が一体何処へ向かうのか、オブライエンにはまだ知らされていない。これが十代一人なら遠慮なく訊ねていただろうがそうではないので、このまま到着まで知らずにいる方がかえって幸せかもしれないという考えがオブライエンの頭に浮かんでいた。山だろうが川だろうが、その名称に騙され安心してしまっては後々後悔するだろうから。
「オブライエンほんとに昼飯いらねえの?」
「ああ……腹は減ってないから代わりに食え」
「じゃあ有難く」
「アーユースリーピー? 寝てても良いぜ」
「分かったからお前は安全運転を心掛けろジム」
「オーライ!」
 返事とは反対にスピードが更に上がる。「安全運転だと言ってるだろ!」これでは眠気を感じるどころではないというのに!
 その後、三時間もの高速運転から解放されたオブライエンを待ち受けていたのは、山でもなければ川でもない、太陽の反射が眩しい大海原だった。まるで光の粒をちりばめたようなきらめきに車から降りた時は目が眩んだが、それを一粒残らず吹き飛ばしたのが直後十代から渡されたフェリーのチケットである。記されていたのは離島の名前。財布と携帯電話だけでは身軽過ぎるだろう目的地。だが今更引き返して荷物を取りに帰るなんて出来ない距離で、加えて十代もジムも(カレンも)荷物なんてあってないようなものだったから、離島に行ったってどうにかなる気がした。根拠は無いがこの顔ぶれだ、旅は道連れである。
 出航の汽笛に乗せて再び呟く。「ああ畜生」今度は一週間は帰れそうにない。畳む