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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

見据える
・空っぽだと思ってるブルーノ。
#ブル遊

 僕には何も入ってないから返す言葉も出てこないのかな、と真顔で言うブルーノの目尻では、小さな雫が落ちるのを必死で耐えていた。
「嬉しい時って、ひとは泣くものなの?」
「人は泣きたい時に泣くものだ」
「じゃあいま、僕が遊星から言われたことに、僕が悲しんでいるわけじゃない?」
「自分で言葉にしてみるんだ、ブルーノ」
「ことば」
 ことば、ことば……。繰り返す薄い唇に、黒いグローブの生地が擦れた。途切れた呟きを拾い上げて、遊星が続ける。
「愛している。愛していた。これからも愛する」
 彼の声は決して大きくはない。だって今は夜中だもの、当然だよね。大きな声を出したら、ジャック達が起きちゃうもんね。冷静なもう一人の自分が言う。でも遊星の声には、あの、勝利を確信した時のような不思議な色彩がじわりと滲んでいて、月光だけが漂う作業場に強く響いた。
 雫はついに溢れた。目尻からぽつ、とうまれて、この世に落ちた。口元に添えられた布をいっそう黒くして、そして向かい合う青年の変化に気づく。
 強いはずの彼の、霧のような揺らぎ。不安定さ。あ、僕が何か言わなくちゃ。何を?
 すがりつく先は彼の肩口だった。細くて頼りないはずの体躯は、いつだって自分の拠り所で、だから。
「からっぽの僕に愛をくれてありがとう」畳む