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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

おお神よ、我らを救いたまえ
・アンドロイドなブルーノ。
・遊星を神様かなんかだと思ってるブルーノ。
#ブル遊 #IF

「遊星、遊星、怖いよ、腕が、腕が取れちゃった」
「大丈夫だ、痛いか?」
「痛い」
 痛覚などないはずなのに、この機械人形は全く不思議なことにしきりに痛みを訴えてくるのである。人間ならば恐らく叫び喚きたおし血みどろになっているであろうこの状況、つまりブルーノの左腕の肘から指先にかけてすっぽりと抜け落ちてしまっている状態であっても、青年は涙の代わりに水滴だけをはらはらと垂らして俺に縋る。
「すぐによくなる」
「本当? 死なない?」
「あぁ」
 俺よりも大きなその身体で俺の胸元に泣きつく姿は愛らしいといえばそうである。しかし表面に温度はなく、取れた腕から赤い液体は一滴も出てはいない。だがブルーノは相変わらず俺にぎゅうと抱き付いてその左手に持った自身の右腕の半分をこつこつと俺の背に当ててくる。安心させるように彼の頭を撫でると、うう、と呻き声が上がった。可哀相に、ブルーノは今必死に恐怖と戦っているのだ。肉体の一部が自分から欠けてしまったそれ。何度も経験しているはずなのにいつまで経っても彼に彼にとっては初めての出来事なのだ。人間ならば命取りになることでさえ、ブルーノの動作を欠片も邪魔することはかなわない。ましてや死ぬことなど。それすら知らぬブルーノは、自分を人間だと思っているこの青髪の青年は、人間ならばお前のようにはならないのだということを知らずに俺に泣きついた。
「腕を出してくれ。さぁ治療しよう」
「うん」
 ブルーノの左手から身体を模した物体を受け取り、彼の右腕の肘に合わせる。そこから伸びる色とりどりのリード線は千切れてささくれていた。床に座らせたブルーノに少し待つよう指示し、俺は立ち上がって背後の棚から工具一式を仕舞い込んだ箱を引っ張り出した。ぐっと重みが肩に掛かって鼻から長い息が出る。筋肉が伸縮する感覚が伝わる。ブルーノは自由の利く手で瞼を擦っていた。
 工具箱から太めのリード線を取り出し、ビニールを爪で剥がす。中の金属線をブルーノの肘から中途半端に伸びているそれに絡ませ、コンセントに繋げたまま放置していた熱々の半田ごてを傍の机の上から持ってきて半田を溶かし接合させる。今度はその先を抜け落ちてしまった腕の半分、そこから伸びるリード線へと同様に繋げる。何度かその作業を繰り返している間にブルーノは落涙の模倣を終わらせたようだった。自分の腕を繋ぎ合わせる俺の手元を静止してじぃっと見詰めている。子供が親に言いつけられたようにただただ集中しているのだ。それに気付きながら、俺は時折「痛くは無いか?」などとまるで医者のような言葉を掛けながら(そしてブルーノは従順に「痛くない」などと答えて)電線の通電具合を確認した。後はべりりと破れてしまった表面の皮膚の代理を接着すると、一先ず修理は終了となる。
「もう大丈夫だ」
「わぁ、ありがとう遊星」
 目を瞬かせて俺を見るブルーノはその義眼をきらりと光らせる。その光は人間の目を覆う液体の反射に本当によく似ていた。きいきいと調子を整えるように右腕の関節を動かしブルーノは嬉々として俺に笑いかけた。
「遊星は創造主だ。ボクの神様」
「そんなことはない」
「少なくともボクにとってはそうだ」
 そうして自分を人間だと思い込んでいるこの人形は再び動くようになった腕を左手でさすった。人間を修理できることが不可能だと知らない賢い人形は崇めるように俺を抱き締める。柔らかい重みが俺の身体を包んで、心臓の鼓動のしない体躯がひたりとくっ付いた。
「ありがとう、遊星」
 そうして人間と寸分違わぬ仕草でブルーノは俺の額に口付けた。そのやさしい、ゆるやかな彼の動きが、遠い遠い世界の端くれまで追放してやった記憶へと俺を導いて、思わず俺は目の前に広がるブルーノのシャツにすり、と顔を寄せた。そこに滲む僅かな染みの源はきっと哀しみからでも喜びからでもない。無数の木々の中心にぽつとほったらかしにされたような寂寞感。俺を抱き込む擬似人間の向こう側に見える、あの二度と掴むことのできない夢の記憶に対する果ての無い侘しさが、俺をこんなに駄目にするのだ。畳む