境界線・アンドロイドなブルーノ。#ブル遊 #IF 続きを読む いっそのことボクは君の息を止めてしまいたかった。 ボクは死を知らない。人間の肌の、あの中途半端なぬくもりだけを知っていて、彼等が持っている砂時計の終わりの先を知ることができない。ボクは機械でできているから。ボクを成す全てはボクの到達地点を遊星と同じにしてはくれないのだ。ボクらはいつも同じ場所へ向かっているはずなのに、最後だけは落とし穴に落ちてしまうように突然別離する固定された物語を進んでいる。遊星はボクの知らないところへ行ってしまって、彼が其処へ辿り着いてしまえばボクは二度と彼を見つけることができない。求めることすらできずにボクは彼の居ない世界で生きていかなければならないのか。それは絶望だった。世界に再び光が来ないのと同じくらいの恐怖だった。「ねぇ、君はボクの知らない何かになってしまうの?」「急にどうしたんだ」 夜の静けさはボクをぎゅうぎゅうに暗闇の底へと詰め込む。抜け出せられないルーチンワークのようにボクは只管遊星を抱き締めた。夜闇と同じ色をした髪に頬をすり寄せて甘えたふりをしてみる。でも本当は甘えているのではなく遊星に甘えて欲しくて、そしてボクと同じものになりたいと願って欲しかった。「人間って、辛いね、苦しいね、哀しいね」「何故そう思う」「いつかは死んでしまうんだよ。君は灰になって、今みたいにボクに抱き締められることもなくなる」 それがひどく哀しかった。そうだ、本当に辛くて苦しくて哀しいのは人間ではなくボクだ。ボクだけが君の中から置き去りにされてゆく。消せない記録だけが残されてボクはひとりになる。君はいつかボクのことを全て忘れてしまって、白い空間の中に消えるのだ。なんということだろう! 恐ろしくて遊星を抱きすくめたまま頭からすっぽりと布団に包まった。こうすればボクはこの小さな空間の中ではずっと君と居られると思えたから。「お前にあって俺にないもの、俺にあってお前にないもの」「なにそれ?」 遊星の分の温もりが狭い世界に拡散していく。「俺は人間で、お前は機械でいいんだ。そうじゃなかったら俺はお前を求められない」 もぞもぞと動いて、二人だけの小宇宙で、遊星はボクにキスをした。陶器みたいなボクの唇に彼の熱い舌が触れて、ボクはその熱を根こそぎ食べてしまいたくて深く口付けた。ボクの持っていない温度がボクに拡がって、君の持っていない冷たさが君に拡がる。ボクらの間には互いに失われたものが埋められていたのだ。じゃあいつか君がボクのような冷たさを手に入れたなら、ボクは代わりに君のような温もりを得ることができるかな。その答えが欲しくて、ボクは今日も人間を求めてる。畳む 5Ds 2023/06/09(Fri)
・アンドロイドなブルーノ。
#ブル遊 #IF
いっそのことボクは君の息を止めてしまいたかった。
ボクは死を知らない。人間の肌の、あの中途半端なぬくもりだけを知っていて、彼等が持っている砂時計の終わりの先を知ることができない。ボクは機械でできているから。ボクを成す全てはボクの到達地点を遊星と同じにしてはくれないのだ。ボクらはいつも同じ場所へ向かっているはずなのに、最後だけは落とし穴に落ちてしまうように突然別離する固定された物語を進んでいる。遊星はボクの知らないところへ行ってしまって、彼が其処へ辿り着いてしまえばボクは二度と彼を見つけることができない。求めることすらできずにボクは彼の居ない世界で生きていかなければならないのか。それは絶望だった。世界に再び光が来ないのと同じくらいの恐怖だった。
「ねぇ、君はボクの知らない何かになってしまうの?」
「急にどうしたんだ」
夜の静けさはボクをぎゅうぎゅうに暗闇の底へと詰め込む。抜け出せられないルーチンワークのようにボクは只管遊星を抱き締めた。夜闇と同じ色をした髪に頬をすり寄せて甘えたふりをしてみる。でも本当は甘えているのではなく遊星に甘えて欲しくて、そしてボクと同じものになりたいと願って欲しかった。
「人間って、辛いね、苦しいね、哀しいね」
「何故そう思う」
「いつかは死んでしまうんだよ。君は灰になって、今みたいにボクに抱き締められることもなくなる」
それがひどく哀しかった。そうだ、本当に辛くて苦しくて哀しいのは人間ではなくボクだ。ボクだけが君の中から置き去りにされてゆく。消せない記録だけが残されてボクはひとりになる。君はいつかボクのことを全て忘れてしまって、白い空間の中に消えるのだ。なんということだろう! 恐ろしくて遊星を抱きすくめたまま頭からすっぽりと布団に包まった。こうすればボクはこの小さな空間の中ではずっと君と居られると思えたから。
「お前にあって俺にないもの、俺にあってお前にないもの」
「なにそれ?」
遊星の分の温もりが狭い世界に拡散していく。
「俺は人間で、お前は機械でいいんだ。そうじゃなかったら俺はお前を求められない」
もぞもぞと動いて、二人だけの小宇宙で、遊星はボクにキスをした。陶器みたいなボクの唇に彼の熱い舌が触れて、ボクはその熱を根こそぎ食べてしまいたくて深く口付けた。ボクの持っていない温度がボクに拡がって、君の持っていない冷たさが君に拡がる。ボクらの間には互いに失われたものが埋められていたのだ。じゃあいつか君がボクのような冷たさを手に入れたなら、ボクは代わりに君のような温もりを得ることができるかな。その答えが欲しくて、ボクは今日も人間を求めてる。畳む