ブラックアウトよりも鮮やかに・寧ろアンチノミー。#ブル遊 続きを読む 目が覚めたら全てが夢でした。そういった切望に満たされた言葉を、ボクは未来で何度も目にして耳にしていた。いつか素晴らしい世界がやってきて、そこではボクは幸せに笑えていて、ビルも人も今までどおり何ら変わらず欠片も崩壊していない。相変わらずボクはカードをドローしてサーキットを駆け抜ける。風と一体化するような感覚。光を瞼の奥に閉じ込めて、ボクは走る。 甦った世界は、言ってしまえばボクの理想の世界だったのだ。人々がただ単純に普通の生活をして普通にデュエルを楽しんでいる。ボクはこの過去の街、そしてボクが未来で渇望した未来で横たわりながら目を閉じた。ガレージのソファはそんなに柔らかくはないけれど寝るに苦労する程でもない。左腕で目隠しすると、さっきまで遊星と弄くっていたDホイールのエンジンの匂いがした。馴染んだ匂い。けれどもボクが昔嗅いだものとは全く違う匂いだ。 ボクの存在が段々と別の時間を歩き始めている。それは日に日に強くなっていく。一度終わったストーリーが手を加えられて描かれるような。一ページ、また一ページと進む度に、ボクの抱えた秘密を暴かれそうな恐怖が溢れてきて仕方がない。罪悪感がちらちらと降り注いでボクを震えさせる。 人は未来に夢を見て、未来に怯える。希望も絶望も未来に描く。正反対のそれら。二律背反。ボクの名前。 ボクは、ブルーノなのか。それとも。 独り言ちた声は幽霊の呟きのようにぼそぼそと散った。ブルーノというボク。アンチノミーというボク。どちらにせよボクの存在はこの時代に異質なものであることに変わりはない。けれどもそれがいつか、遊星の進む先の星明りになれるのなら、ボクが今此処に居ることには意味がある。結果はまだ見えない。澱んだ道標はボクを正しい場所へ連れて行ってくれるのか知らない。知らないけれど、それが為される時、きっとボクは此処から消える。ボクの中に蓄積された時間はリセットされて、異質な存在は消却される。神様なんて見えない存在の采配なんかじゃない。それはボク等じゃ到底左右させることの出来ない、大きな大きな宇宙の流れが、時の砂時計が執行するのだ。 ボクは自分の命が尽きた瞬間のことをあまりよく覚えていないけれど、強い孤独を感じていたことだけはありありと思い出せた。仲間に遺され、仲間を遺して去る寂しさ。この感情を、いつか遊星は感じるのだろうか。いいや感じてくれるのだろうか? ボクが居なくなったら二度と会えなくなることに涙を流したりしてくれるのだろうか? 孤独の深さは相手を想うベクトルに比例するのであれば、君の孤独はボクの孤独と同じ量なのだろうか? 腕を瞼から外して、掌を胸に当ててみた。何も鼓動は感じなかった。代わりにちくたくと、偽物の命がひとりでに時を刻む。真っ暗な視界で延々と進む時計。せめて遊星と同じものを持っていたならば、ボクは彼と一緒に歩くことが出来たのだろうか。嘗てのボクだったならば。「どく、どく、じゃない。遊星みたいな音がしない――」 でもボクは、こんなボクでも、きっと生きてるんだろう。ならボクの針はあとどれだけ廻る? 暗闇は答えを持たない。輝きを求めて目を開けたら、見慣れたガレージの天井が広がって、そこに半分だけ差し込んだ月の光がボクの世界を青白く照らしていた。夢じゃない、ボクが生きた現実とは違う、現実の世界を。畳む 5Ds 2023/06/09(Fri)
・寧ろアンチノミー。
#ブル遊
目が覚めたら全てが夢でした。そういった切望に満たされた言葉を、ボクは未来で何度も目にして耳にしていた。いつか素晴らしい世界がやってきて、そこではボクは幸せに笑えていて、ビルも人も今までどおり何ら変わらず欠片も崩壊していない。相変わらずボクはカードをドローしてサーキットを駆け抜ける。風と一体化するような感覚。光を瞼の奥に閉じ込めて、ボクは走る。
甦った世界は、言ってしまえばボクの理想の世界だったのだ。人々がただ単純に普通の生活をして普通にデュエルを楽しんでいる。ボクはこの過去の街、そしてボクが未来で渇望した未来で横たわりながら目を閉じた。ガレージのソファはそんなに柔らかくはないけれど寝るに苦労する程でもない。左腕で目隠しすると、さっきまで遊星と弄くっていたDホイールのエンジンの匂いがした。馴染んだ匂い。けれどもボクが昔嗅いだものとは全く違う匂いだ。
ボクの存在が段々と別の時間を歩き始めている。それは日に日に強くなっていく。一度終わったストーリーが手を加えられて描かれるような。一ページ、また一ページと進む度に、ボクの抱えた秘密を暴かれそうな恐怖が溢れてきて仕方がない。罪悪感がちらちらと降り注いでボクを震えさせる。
人は未来に夢を見て、未来に怯える。希望も絶望も未来に描く。正反対のそれら。二律背反。ボクの名前。
ボクは、ブルーノなのか。それとも。
独り言ちた声は幽霊の呟きのようにぼそぼそと散った。ブルーノというボク。アンチノミーというボク。どちらにせよボクの存在はこの時代に異質なものであることに変わりはない。けれどもそれがいつか、遊星の進む先の星明りになれるのなら、ボクが今此処に居ることには意味がある。結果はまだ見えない。澱んだ道標はボクを正しい場所へ連れて行ってくれるのか知らない。知らないけれど、それが為される時、きっとボクは此処から消える。ボクの中に蓄積された時間はリセットされて、異質な存在は消却される。神様なんて見えない存在の采配なんかじゃない。それはボク等じゃ到底左右させることの出来ない、大きな大きな宇宙の流れが、時の砂時計が執行するのだ。
ボクは自分の命が尽きた瞬間のことをあまりよく覚えていないけれど、強い孤独を感じていたことだけはありありと思い出せた。仲間に遺され、仲間を遺して去る寂しさ。この感情を、いつか遊星は感じるのだろうか。いいや感じてくれるのだろうか? ボクが居なくなったら二度と会えなくなることに涙を流したりしてくれるのだろうか? 孤独の深さは相手を想うベクトルに比例するのであれば、君の孤独はボクの孤独と同じ量なのだろうか?
腕を瞼から外して、掌を胸に当ててみた。何も鼓動は感じなかった。代わりにちくたくと、偽物の命がひとりでに時を刻む。真っ暗な視界で延々と進む時計。せめて遊星と同じものを持っていたならば、ボクは彼と一緒に歩くことが出来たのだろうか。嘗てのボクだったならば。
「どく、どく、じゃない。遊星みたいな音がしない――」
でもボクは、こんなボクでも、きっと生きてるんだろう。ならボクの針はあとどれだけ廻る? 暗闇は答えを持たない。輝きを求めて目を開けたら、見慣れたガレージの天井が広がって、そこに半分だけ差し込んだ月の光がボクの世界を青白く照らしていた。夢じゃない、ボクが生きた現実とは違う、現実の世界を。畳む