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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

兎よ空を駆けろ
・失った後の遊星。
・Funny Bunny/the pillowsからインスパイア。
#ブル遊

 夜空はとても美しかった。
 冬になろうと地球が廻って何回目か知らないが、この時期の空は高く星のまたたきがより輝いて見える。俺にとっては数少ない愛でるべきものだ。きっと誰にも汚されない、誰にも奪えない煌き。神にも近い崇高な存在だ。眠れなかったから僕は星の名前を覚えようとしたんだよ。そう言って赤い目で朝を迎えていたブルーノの顔が浮かんだ。
 冷えた風が足元を踊る。作業場には以前のように馴染んだ人間は誰一人として居ない。たった一人、俺だけが、まるで縋るようにこのガレージに残っている。独り言を呟きながらD・ホイールの手入れをしている俺を見たら、皆は何と言うだろうか? 恐らく何も言わない。ただ寂しさを浮かべた瞳で見るだけだろう。いっそ哀れんでくれれば楽かもしれない。だが、きっとそうはしない。皆が皆、俺を好きだと言ってくれるから。愛とは時に辛さを齎すことを、最近になって漸く知ったのだった。
 シャッターを開け放した入口から覗く暗闇には、硝子に光が反射するように星が舞う。星の消滅の光になれたら、俺はブルーノのところへ行けるだろうか。光になれたら。
 光。光が欲しい。部屋の隅に立て掛けてあったひびの入った窓硝子が目に入った。衝動的にそれを引っ張り出して、思い切り床に倒す。がしゃあんと音を立てて呆気なく割れ破片になったそれを、更に金槌で砕いた。何度も砕いて、粉々にした。コンクリートの床に当たるがんがんという音と、硝子が壊れていくがしゃがしゃという音が、俺だけに響いた。
 それを何往復した頃だろうか、床には綺麗な硝子の絨毯ができた。室内に灯った小さな照明を反射し、薄緑がかった光を帯びている。あちこちに屑が飛び散ってしまった(汚くするとアキが怒るが彼女は此処には居ない)。硝子の上に乗ると、じゃりり、と摩擦音が上がった。ブーツの下は棘の海。けれどもこれは俺にとっては銀河の流れだ。光の放流に沿い、宇宙にたゆたう星屑みたいに彷徨い果てて、いつかブルーノの居る場所へ辿り着くのだ。畳む