流転・朔太郎の「言はなければならない事」を読んで。#ブル遊続きを読む ごろりと床に寝そべっているように見えるブルーノはそれは四足歩行動物のような格好をしていたので、遊星は怪訝そうな目で彼を見下ろした。「一体何をしているんだ?」「わぁ、遊星が大きく見える」「答えになっていないぞ」 何かを思いついて行動しているのだというところまでは推測できてもそれ以上のことは判断しかねる。思いながら遊星はブルーノの横にあるソファへ腰掛けた。ブルーノはと言えば相変わらず猫が伸びをする時のような格好で居る。青髪の猫、いいや青髪の大型犬だな。「えらく大きい犬が居るものだ」「あはは、でしょう? 動物ってどんな視線で僕等を見てるのかなって思ってさ」「だからそんな四つんばいになっていたのか」「そうそう」 全くこの同居人は唐突に変わったことをし始めるので遊星は苦笑をこぼした。膝は立てたままぐっと両腕を伸ばし遊星を見上げるブルーノは主人に甘える犬のように愛想良く笑っている。もし本当にブルーノが飼い犬であったならば色々と世話が焼けそうだ。そう有り得そうにないことを考えつつ、遊星は大型犬の頭をひとつ撫でた。柔らかい毛の感触が手袋越しでも伝わった。嬉しそうにまた笑うブルーノは本当に犬になりきっている様子である。だが遊星の指先が離れると同時に漸く彼は立ち上がって、遊星の右隣へとぼすんと座った。視線が逆転したブルーノは呟く。「動物ってさ、言葉は喋れないけど、ボクらの言ってることはきっと分かってるんだよね。でも話せないから、自分のことはちゃんと伝えられなくて、いつももどかしくて仕方ないんじゃないかな」「そうかもしれないな」「さっき、下から見た時思ったんだ。世界は広過ぎて、見上げた君は大きくて、その存在感にボクは押し潰されそうだった。ボクがもし喋れない犬だったら、きっと、ずっと吠えてるだけだろうなぁ」 ボクに気付いてよ。ボクのことを分かってよ。って。 かち、かち、と、時計の針の音が室内に流れる。二人分の身体を受け止めたソファが小さくきし、と鳴った。呼吸をする度に彼等の肩がちぐはぐに上下して、それが何度か揺れた頃、遊星の唇が徐に開かれた。「触れればきっと分かるさ」 投げ出されていたブルーノの左手を遊星の右手が握った。きゅ、と繋がった指先から熱が分け与えられて、そこだけが二人分のぬくもりを有していく。ほら、これでお前と繋がっただろう。そういう遊星の意思が肌を伝って流れ込んでくるようで、ブルーノは途切れぬよう、離さぬように絡ませた指を握り返した。体温の共有。感情の流動。鼓膜を震わすものが無くとも互いに一つになれる方法がある。「じゃあ、ボクの気持ちも伝わってる?」 ボクらの間には言葉は無かった、けれども確かに感じるものが存在して、君とボクは繋がってるんだって分かるんだ。遊星の声の代わりに、その口元に刻まれた笑みが返事となった。「繋がってるって、心地良いね」畳む 5Ds 2023/06/09(Fri)
・朔太郎の「言はなければならない事」を読んで。
#ブル遊
ごろりと床に寝そべっているように見えるブルーノはそれは四足歩行動物のような格好をしていたので、遊星は怪訝そうな目で彼を見下ろした。
「一体何をしているんだ?」
「わぁ、遊星が大きく見える」
「答えになっていないぞ」
何かを思いついて行動しているのだというところまでは推測できてもそれ以上のことは判断しかねる。思いながら遊星はブルーノの横にあるソファへ腰掛けた。ブルーノはと言えば相変わらず猫が伸びをする時のような格好で居る。青髪の猫、いいや青髪の大型犬だな。
「えらく大きい犬が居るものだ」
「あはは、でしょう? 動物ってどんな視線で僕等を見てるのかなって思ってさ」
「だからそんな四つんばいになっていたのか」
「そうそう」
全くこの同居人は唐突に変わったことをし始めるので遊星は苦笑をこぼした。膝は立てたままぐっと両腕を伸ばし遊星を見上げるブルーノは主人に甘える犬のように愛想良く笑っている。もし本当にブルーノが飼い犬であったならば色々と世話が焼けそうだ。そう有り得そうにないことを考えつつ、遊星は大型犬の頭をひとつ撫でた。柔らかい毛の感触が手袋越しでも伝わった。嬉しそうにまた笑うブルーノは本当に犬になりきっている様子である。だが遊星の指先が離れると同時に漸く彼は立ち上がって、遊星の右隣へとぼすんと座った。視線が逆転したブルーノは呟く。
「動物ってさ、言葉は喋れないけど、ボクらの言ってることはきっと分かってるんだよね。でも話せないから、自分のことはちゃんと伝えられなくて、いつももどかしくて仕方ないんじゃないかな」
「そうかもしれないな」
「さっき、下から見た時思ったんだ。世界は広過ぎて、見上げた君は大きくて、その存在感にボクは押し潰されそうだった。ボクがもし喋れない犬だったら、きっと、ずっと吠えてるだけだろうなぁ」
ボクに気付いてよ。ボクのことを分かってよ。って。
かち、かち、と、時計の針の音が室内に流れる。二人分の身体を受け止めたソファが小さくきし、と鳴った。呼吸をする度に彼等の肩がちぐはぐに上下して、それが何度か揺れた頃、遊星の唇が徐に開かれた。
「触れればきっと分かるさ」
投げ出されていたブルーノの左手を遊星の右手が握った。きゅ、と繋がった指先から熱が分け与えられて、そこだけが二人分のぬくもりを有していく。ほら、これでお前と繋がっただろう。そういう遊星の意思が肌を伝って流れ込んでくるようで、ブルーノは途切れぬよう、離さぬように絡ませた指を握り返した。体温の共有。感情の流動。鼓膜を震わすものが無くとも互いに一つになれる方法がある。
「じゃあ、ボクの気持ちも伝わってる?」
ボクらの間には言葉は無かった、けれども確かに感じるものが存在して、君とボクは繋がってるんだって分かるんだ。遊星の声の代わりに、その口元に刻まれた笑みが返事となった。
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