から

@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

プレゼント
・付き合ってそれほど時間が経っていないブル遊。
・頭のネジが飛んでるブルーノちゃん。
#ブル遊

「でね、そのCPUってすっごく高性能で、でもお店のおじさんが割引してくれてさ! かなり得な買い物しちゃったんだ」
「そうか」
「うんうん。こうさ、なんていうかさ、フォルムがこう……滑らかでね、しかも軽量化されてて、やっぱり買って良かったって思った!」
「そうか」
 彼の感じた滑らかさを表現しているらしい、ジェスチャーを交えながら本当に嬉しそうに話すブルーノは、今日で一番輝いているように見えた。青い髪を時折揺らしつつ話す彼を見遣りながら、俺は手元のエスプレッソを一口啜った。美味い。少し離れたところではピアノの生演奏が行われていて、ゆったりとした、でも華やかな雰囲気を作り上げている。そんな一流ホテルのカフェで、高級そうな柔らかいソファに腰掛け向かい合っているブルーノは、こんな場所には無縁そうなメカやらハードやらの話をし続けていた。俺達の席の周りではスーツ姿に身を包んだビジネスマンが沢山商談らしき話をしていて、こちらを見る周りの視線がちょっと痛く感じた。
 そもそも何故こんな場所で話しているかというと、今日はこのホテルの会議室でちょっとした講演会があったからだ。主催の講師にお互い興味があったため一緒に参加したのだが、その帰りにブルーノが「何だか喉が渇いたなー」と言って勝手にカフェに入ってしまったのである。しかも一品一品が無駄に高いカフェにだ。節約を常日頃心掛けている俺にとっては予想外の出費になるので拒否したかったのだが、いつも何処からか金が湧いてくるブルーノは何も気にすることもなくすたすたと案内されていった。いつも思うが、こいつの収入源は一体どうなっているのだろう。
 腕時計の針はそろそろ会話開始から三時間経過を指そうとしていた。恐ろしいことに、ブルーノはカフェオレ一杯でここまで休憩せずに話し続けている。これは一種の才能だと思う。視界の端の方では、綺麗なウエイトレスが追加注文を聞きに来ようか迷っている。それもそうだろう、同席の男がひたすらコアな話ばかりしているのだから。
 手元のカップにはあと一口分もない液体がうっすらと残っている。これはまだ飲み干さない。ブルーノの会話が終了間際になる頃を見計らって飲み干すものだと学習したからだ。哀しいかな、学友のブルーノと付き合い始めて知ったのは、彼が周囲を気にせずに行動できるということだった。しかし人間の順応性とは素晴らしいもので、始めは違和感さえ(寧ろ少しの嫌悪感でさえ)感じていたが、今となっては慣れてしまった。無論ブルーノは俺のカップの中身なんて気にしていない。恐らく彼の中では気にする以前の問題なのだろう。
 しかし流石に聞き役に徹しているのにも疲れてきた。何しろ返す言葉が相槌くらいしかないからだ。あぁ、だとか、そうか、だとか、一体今日で何回言ったのだろう。いや、ブルーノと付き合ってから累計で何回言ったのだろう。ふぅ、と、無意識のうちに溜息をついてしまった。ほんの小さなものだったが、溜息をつくと自分が疲れていることを余計に実感させられる気がして、そして確かに俺の疲労感を少しばかり増加させたのであった。
「そういえばさ遊星」
「あぁ」
「はい、これあげる」
「あぁ……?」
 文脈が唐突過ぎないか? 相変わらず脈絡のない奴である。悪い真面目に聞いてなかった、と謝る前に、俺の目の前に揺れるものがあった。ブルーノが指に何やらぶら下げている。
「何だ?」
「だって今日、付き合ってから三か月経つからさ。記念にってことで」
「……あ、」
 そうだった。そう言えば今日は、確かに俺とブルーノが付き合い始めて三ヶ月目に当たる。すっかり忘れていた。けれども一年記念などならまだしも、何故三ヶ月目なのか不思議である。それが顔に出てたのだろう、ブルーノは「三日、三週間、三か月、三年って言うだろ?」と、さも当たり前のことのように述べた。それでも三日三週間の節には何もしていないところが彼の不思議さを助長しているのだが。
 改めて俺は目の前に揺れるものを見て受け取った。キーホルダーのようだが、付いているのはキャラクターものでもアクセサリーでもなく、中くらいの消しゴムのような大きさの金属製の箱である。色だけがやたらと派手で、黒地にスカイブルーのストライプが彩られていて目に眩しい。その真ん中には五ミリほどの丸いスイッチが付いている。好奇心からかちりと押してみた。すると突如、俺達の間のテーブルに置かれているブルーノのスマートフォンが鳴り出した。しかも音楽は『HELP!』だ。何だこれは?
「それ、簡易式のお助けコールなんだよ。そのスイッチを押すと電波が出て、内蔵されてるセンサーと無線モジュール、それとプログラムを介してボクのスマホに連絡が来るようになってる」
 作ってみたんだー何かあったらすぐ連絡頂戴ね。と、ブルーノはにこやかに笑う。全く、恋人に贈るプレゼントにしては色気も何もない。女性ならまだしも俺は男だし、何より助けてほしい時が何時なのか予想もつかないほど平和な日々を過ごしているのだ。けれどもこんなものをわざわざ自作してくれる色気のない人間がブルーノというもので、そんなところもひっくるめて好きになってしまったのだから仕方ないと結論付けることにする。
 彼はそのプレゼントを渡したことで、まるで役目を終えたかのように席を立った。会話の終わりも常に唐突だ。すかさずほんの僅か残ったエスプレッソを飲み干して俺も続く。ちゃり、と掌に納まった小さな箱が何だか妙に愛おしかった。こう感じてしまうあたり、自分も相当ブルーノに惚れ込んでいるのだろう。全く救えない。
 伝票を催促するブルーノについ甘えて渡そうとした時、ふと何かを思い出したかのように彼が「あ」と言った。
「そういえばさ遊星」
「あぁ」
「大好きだよ」
 今までもこれからもね。そうやって突然、最上級の微笑みと共に降ってきた甘ったるい言葉は、一気に俺の全身を羞恥で硬直させた。こんなタイミングで言うなんて、どうして何の前置きもないんだ! あぁそうだこいつはそういう奴だなんて分かっていたはずなのに。それでもサプライズのような不意打ちの告白に頬が瞬く間に熱くなるのを感じた。恥ずかしい。力んだ拍子に再び押してしまったスイッチが再び『HELP!』を流すまで、俺は間抜けな表情で彼の顔を見上げたままだった。それは馬鹿みたいに呆けた表情だったに違いない。
 いっその事、こんな俺を助けてくれ。そう手の中の箱に願ってしまいそうになった、三ヶ月目記念日。畳む