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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

お題『メール(手紙)のやりとりを楽しくしているサイテリ』
・「エーテルの青年」番外編2。
#サイテリ #現代パラレル

‪‪『もう二度と送ってくるな』‬
 そのダイレクトメッセージが届いた時、私の中でかの『威風堂々』が響き渡り、次に走り出さんほどの歓喜が大波となって私を飲み込んだことを、この世の言葉でどのように表現すればよいだろう。いや、どんな言葉をもってしても言い表せない。それほど青天の霹靂であったから、乗っていた電車の座席から突然立ち上がり周囲を驚かせたのも仕方があるまい。
 我々人間は日々言語を操っているのに、感情を代弁するに足りぬ日が来るとは!
 進行方向に重心が掛かり、身体が斜めになったところで再び座席に座り直し(何事もなかったように振る舞ったが効果は薄いだろう)もう一度手の中の端末を確認した。この数ヶ月間、何度も何度もメッセージを送り続けたあの青年からの返信が、一通だけ、ぽつねんと、確かに表示されていた。過去に送ったメッセージが既読になっていることは確認していたが、先方から反応があったのはこれが初めてだ。比率でいうと百分の一となる。私は百の懇願の上に、ようやく一の真実を得たのである。
 二度と送ってくるな、と命令口調で彼は仰るが、承服しかねるその故を、私の内情を知る者は理解してくれるであろう。内情を知る者とは、つまり万物を創造せし神である。生者にはもはや私の心は理解できまい、死者の心を理解できないように。
 私は彼に何も送らないという選択肢を有しない。不可能なのだ。それは彼へ到達する道を自ら閉ざすということであるから。いま彼は何処で何をしているのであろう? この国にいるのであれば、私は彼と同じ空気を肺に取り込んでいることになるのだろうか? であれば、私の好みでない排気ガス混じる都会の空気でさえ愛しく思えるのだから、人間の価値観とはあまりに身勝手なものだ。
 匂い。私は古びた本の匂いのほうが好きだ。だからいつか、私の好きなあの匂いを――僅かに黴の混じった、私の郷愁を駆り立てる匂いを、彼と共に愉しみたい。人目を避け、物陰に隠れてひっそりと煙草に火をつける少年のような、何か後ろめたい、けれども自分だけしか知らない瞬間を共有するような心躍る時を彼と過ごすのが、私の願望である。
 だから今日も彼へ送ろう。どうかこれ以上私の前を行かないで、私がその隣へ追いつくまで待っていてくれるように、祈りを込めて文字を打ち込もう。
 エーテルの君よ。私はいま車窓の向こう側に消えていく景色を眺めているよ。ビルの連なりばかりで味気ないが、この中にキミも見た風景があるのだろうか?
 拝啓。
『キミはいま何処にいる?』
 敬具。畳む