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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

お題『本気にしないよ、それでいい?』
#アカタイ

 君のなかにいる僕がその他大勢と同列であると信じていたし、僕はそれでも良いと思っていた。そうやって武装することで、つま先から僕を喰らおうとするどろどろした悪魔に負けないつもりでいた。耳を疑ったのは、僕の負けをうながす君の言葉だ。
「アカネのこと好きだったんだ」
 なるほど悪魔は君か。腑に落ちたような、肩透かしをくらったような、妙に納得がいく結末だと思った。
 こちらを窺う目には、後悔に近いものが覗いているようだった。おそらくタイセイも僕と同じく、僕たちが互いに相手を好ましいと思っている、とは到底思っていないのだろう。今にも「言っちゃった、へへ」とか泣き出しそうな勢いだ。
 体の半分を校舎の影に覆われたタイセイはついに俯いた。もったいない、僕はその申し訳なさそうな表情がもっと見ていたい! 僕も同じだったのだと答えたらその目はどれほど見開かれるのか、想像する暇すら惜しいほど。彼がずぶずぶと影の中に沈んでいかないよう、僕はタイセイの両肩を掴んだ。
 
 いちど悪魔に気づいてしまえばタイセイをそこから切り離すのは難しかった。たぶん僕は、地球だとか世界だとか呼ばれるものが何度壊れて再生しても、そのたびに後ろめたい人生を送るのだろう。影のようにまとわりつく生ぬるいものから逃げられないで、じっとタイセイを眺めているのだろう。いくら耳を塞いでも彼の声を聞きもらすことはないので、どんな生き方をしてもきっと彼を見つける。その時に同じ場所に生きていたならば。
 つまり、ここではタイセイが僕といてくれる可能性が極めて低いと思い込んでいたので、その言葉を本気にできなかったのだ。
「本当なの」と訊ねるのは卑怯なんだろう。けれども聞きたくて仕方がないから、我慢ならなくて口をついて出た。頷いてくれたら、ようやく君に喰われてもいいと思える。許されるんだ、って思える。そのことに気づいたら妙に冷や汗が出てきた。のっぺりした世界のなかで際立つ君が、頭を縦に揺らすのが見えた時、わあっと声をあげそうになった。「ありがとう」とだけ言ったのは、それしか言えなかったからである。
 謝意のキスを頰へと送った。離れがたくて最後に舐めた。人間の肌特有の塩気とふわふわした舌触りは、身に覚えのある欲望とは似ても似つかない。その日の記憶は焦げた飴玉となって僕の心にずっと転がっている。



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