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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

エデンの双子
・双子の高校生のふたり。
#覇十 #現代パラレル

 これで性格が似通っていたら仲の良い双子として揃って微笑ましく接してもらえたかもしれないが、そうはならなかったのだから人生は不公平から始まっているとしか言えない。そもそも十代のような天真爛漫という言葉以外に当てはまるものが見当たらないくらい笑顔の絶えない、裏表のない(これはただ馬鹿なだけかもしれない)人間が、俺の存在の所為で近寄り難いものとして扱われるのが到底許せなかったのは事実だ。だから高校ではなるべく俺とは行動を共にしないよう距離を取るようにと入学前から耳にタコができるほど言い聞かせてきたのだが、そこは俺の双子の弟、言って聞くような性格ではない。誰もが遠巻きに見てくる中で弟だけは満面の笑みで俺を呼ぶのであった。
 十代はすぐに高校に慣れた。社交性に富んだ彼は友人を作ることにも長けていて、しかも相手の顔色を伺うことなどせずとも自然体でいるだけで他人が寄ってくるのだから、彼の魅力は彼自身にあるのだろうと思う。彼のどこそこが、等ではなく。それなのに一年の半分が過ぎた頃になるとその友人達は十代の元を訪れなくなってしまった。十代が違うクラスの俺の元へと通い続けていたからだ。十代と異なり友人と呼べる存在を作らずに成長してきた俺には他人への関心が皆無で話題を提供することなど到底なく、ただ出来ることといえば人間関係を拗らせることだけだと幼い頃からよく分かっていた。だから学校では俺に引っ付くなと言っておいたのだ。俺と居れば十代の友人らは敬遠するに違いないから。とこしえの春のような十代とは似ても似つかぬ性格であるから。雪崩に巻き込まれ死にそうな深い雪山に誰が望んで侵入するだろうか。かけ離れた俺達が双子として生まれたのは、どこまでもこの世の天秤がアンバランスだという証明のように思えた。
 いつもそうだ。小学校でも中学校でもそれ以外のコミュニティでも、結局残るのは俺と十代の二人だけ。もしかしたら十代には他にも何か残されたかもしれない。しかし俺には常に十代しか残されない。俺の履歴にあるのは十代との記憶のみだ。積み重ねてきた時の欠片を分かち合う相手がたった一人だなんて、俺にとっては幸福以外の何物でもなかった。故に折角の高校生活をこんな状態で弟に過ごさせてたまるかと思う一方で、十代が傍に居ることで漸く感じることの出来る生の感覚に酔い痴れる俺は、たとえ大切な弟の友人であろうとも、他人のことなど心底どうでもいいろくでもない人間であるのは間違いない。肝心なのはこうして二人で居ることなのだ。生きていくことなのだ。
 二年前、僅かな懺悔を抱きながら弟と家路についたことなどはるか昔の出来事みたいに、最上級生になった俺は当然の権利として十代の隣に立っている。
「大学、どうするんだ」
「んー、なんかぱっとしないんだよなぁ。進学するのやめよっかなぁ」
「お前はやればできるんだ。必須科目は教えてやるから、今度の模試で俺が言う大学名を志望校に書いてみろ。目安になる」
「覇王が言うならそうする」
 白いシャツが鮮やかな日の光を反射してその色以上に眩しく見えた。放課後にだけ満ちる、ざわめきの膜に包まれた静寂の教室。開け放した窓の上には未だ落ちようとしない光の塊が熱射を浴びせてくる。汗ばんだ制服が邪魔だ。本格的な夏になりかけた世界は蒸し暑く余計に心地を悪くしていたが、誰も近寄らない教室の片隅で小さな楽園を形成し、俺達はその中で緩やかな呼吸をし続けていた。
「進路希望の紙、出しに行くから。覇王も一緒に行こうな」
「行くのは良いがお前と共に説教をくらうのは気が進まんな」
「そんなこと言うなよ、お兄ちゃん」
 そう笑う十代の唇から時折零れる湿った吐息が皮膚を撫でるたび、その下を流れる血液が熱く唸って、一層弟を愛おしく思った。お前がそうして孤独で在る限り、俺もまた生きていけるのだから。
 そしていつまで経っても俺達は、完全に一人にはなれない。畳む