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@kai_mutterの二次創作置き場

オタクが常にジャンルを反復横跳びしてる

かたどり
・アンチノミーさん×ゾーン様前提ぽい。
#ブルーノ #ゾーン

 全く同じ人間を造り出すことができると、私は思っていません。それは神でさえ不可能なことであると分かっています。だから私はせめてその模造品を生み出そうとしました。えぇ模造品なのです。いくら見かけを似せても中身は違う。ならば中身を似せてみたら今度は心が異なりました。それを知った瞬間、記憶というものは人間が持つ機能の中で最も煩わしいものであると思いました。もし私が自分の記憶を操作できるのであれば、と考え出してもしまうのです。それは何故かと言いますと、停止を知らぬ時間の波に攫われて、私にとって唯一無二の存在が霞のように消え去ることが恐ろしいからなのです。
 「ゾーン、何故ボクを見てそんなにかなしい目をするの?」
 虚空の色をした目で、青年は心配そうに私を見ました。そのやさしい心すら私によって再び世界へ呼び戻されたものであると思うと、どろどろとした我欲やら怨恨やらが私の内部からぼこりと溢れ出て、申し訳なさも交じり合ってどうしても目を細めてしまうのです。思い出と呼ぶには些か美しくない過去に立つ凛々しい青年の姿が脳裏に浮かんで、恰も彼自身が居るかのような錯覚を覚えてしまう。命の終わりを自分で見届けたにもかかわらず。それは誠におぞましいことでした。それは私に希望を与えるのです。彼が再び私の元へ戻ってきてくれた、という、有りもしない幻想を抱かせるのです。希望が生まれた瞬間、同時に絶望も生まれます。だから私は絶望を抱かぬようにひしと両目を閉じてから、改めて青年に向かい合いました。
 「何でもありません。さぁ貴方には大切な役目があります。しかしその前に、一つだけお呪いをかけておきましょう」
 「おまじない?」
 と、子供のように聞き返す青年の、その蒼穹の髪に、醜くも金属にまみれた腕を翳しました。時間は永遠に止まらぬ砂時計です。無慈悲なまでにただの傍観者として流れてゆく。それを実感させられるのが自分の腕を見る時でした。
 段々と焦点の定まらなくなってゆく目をしながら、青年は必死に、縋るように私に手を伸ばしました。けれども私には青年に返す手などありませんでした。
 「ゾーン……ボク、は……君を……」
 貴方は何も知らなくて良いのです。私の過去も、世界の未来も、そして自らのことでさえ、貴方にとっては無関係の御伽噺にしか過ぎません。
 けれども、その透明な魂だけは残しておきます。それは私と、貴方の原型である彼との、最後の共有物なのですから。畳む
ホールドワールド
・ゾーンとアンチノミーが喋ってるだけ。
・未来捏造。
#ゾーン #アンチノミー

「夕陽の色は血の色と同じですね」
 何だかおぞましい言葉だとボクは思った。憧れの人と同じ(ように見える)横顔で、ゾーンはそんなことを言った。彼がいつも着ている服は彼が言う色を何倍にも薄めたような色を滲ませている。
「……ボクは、結構好きだけど」
「おや、貴方は血液が好きなのですか。変わっていますね」
「いやそうじゃなくて、夕焼けが」
「成る程」
 博士らしい口調が出る時に、あぁこの人はボクの意識の中にある遠い存在とは違うんだなとしみじみ感じる。とは言ってもボクはその存在に触れたことも無ければ実際目にしたこともないのであくまで想像の域を出ないのだけれど、それでも完全に異なる何かがゾーンの中にはあるのだ。直接口には出さないが。
 今日も一日中研究に没頭していたゾーンは眩しげに片目を細めた。その下にできた隈を見ると少し心苦しい。でもきっとボクも同じような顔をしているのだろう。
 ボク等は毎日をまるで無限に繰り返される映画を見ているような感覚で過ごしている。それでも確かに時間は過ぎて、今日も真っ赤に塗られた、絵画の中から出てきたみたいに丸い夕陽がボク等を包み込んだ。目の奥まで貫くような光を抱き締めるとじんじんと頭が沸く。その刺激は生きているのだと実感させる薬だった。世界に取り残されたボク等が麻痺しないようにするための必要不可欠な。いくら周りが機械まみれになっても、人間は決して太陽から逃れられないのだと言い聞かされている気持ちになる。
「アンチノミー、貴方はこの景色に希望を見出せますか」
 直したばかりのうつくしい硝子窓を指差しながらゾーンは呟いた。その向こうには瓦礫の山が斜陽を背に受けて影絵の如く黒く浮かび上がっている。ボク等は生きている、この崩壊した世界の中で、たった二人で。希望と呼ぶに相応しいかは分からない。それでもボクの心は確かに照らされていた。ボクとゾーンの中を廻るいのちの雫と同じ色に染まっていたのだ。
「ねえ、本当はその答えが欲しくないんでしょう」
「何故ですか」
「だってゾーン、貴方は笑っているから」
 顔の半分を機械に覆われたゾーン。彼の口角が上がっているわけではなかった。けれどもボクにはゾーンが微笑んでいるように思えたのだ。今日もこうして、ボク等が世界におやすみと告げられることについて。結論はもう出ている。
 真似る様にボクも同じく外へ人差し指を向けた。半分欠けた光の泉が、藍色と紫色の混ぜ合わさった空に朱色を浮かべている。
「ほらあそこ、地平線に寝そべっているのは今日も絶望じゃなかったね。ただの太陽だ」
「いつも思いますが、貴方は少し変わっていますね」
「ゾーン程ではないと思うよ」
 言い返すと眉を顰めて、それから今度こそ彼は緩く笑った。やわらかくあたたかな光を浴びながら、ボク等の全てが今日も過ぎ行く。畳む